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● 帰る場所 赴く先に |
秋茜を見に行こう。
きっときっと、この場所が黄金色に染まる季節に。
「うっ、うん……っ!」
何かを察していて、なのに決してそれを聞かずにただ、『あんまり遠くに行っちゃだめだよ』とだけ言ってくれた大好きなトモダチ。
だから自分は、言えない代わりに約束をする。
昔、手を繋いでこの河原を走り回って追いかけた、朱色の秋の訪れ。
夢中になって迷子になった自分を、必死で探してくれたのも彼女。
いつだってどんな時だって、自分を守ってくれたのは彼女で、いつだって自分は彼女の隣にいて、後ろにいて。
その背中を、笑顔を見ると死ぬほど安心できた。
「すぐ帰ってくるから」
一護を助けて。ルキアを救い出したら。
だって自分の帰る場所はいつだってたつきの隣。
兄に『暖かい色だね』と褒められた、自慢だった髪を『気に入らない』と切られた時も。
ただ1度のケンカの後、仲直りする間もなく兄が逝き、ひとりぼっちになった時も。
全てが否定的に見えて、世界中で『ひとり』だと思って。
家には誰もいない。だから話す人なんていない。
学校でだって、誰とも話そうだなんて思わなかった。
そうやっていつも1人でいて、さみしくてさみしくて。だけど怖くて。
『井上さん、一緒にごはん食べない?』
いつも一人ぼっちの自分に気付いていたのだろう。たつきが、ある日突然そう声をかけてきた。
多分断ったと思う。1度、断って、だけど掴んだ腕をたつきは放そうとしなかった。そしてそのまま強引に自分の友人のところへと連れて行き、一緒に机を並べて昼食を食べた。
兄が死んでから、ずっとお昼は通学路の途中にあるパン屋で買っていて。買うときは焼きたてのそれも、昼には当然の様に冷め切っていて、ぱさぱさしておいしい、なんて思ったことはなかったのに。
味なんてしなかった。
それでも、泣きたいくらい『おいしかった』。
『なんで髪切ったの?』
『え』
『長かったじゃん、最初』
その日の帰り道。昼休みの様に腕を掴まれて一緒に帰ることになった自分は、だけどうまい言葉を捜せずに黙ってたつきの横を歩いていた。沈黙が続いたけど、そしてそれをどうしよう、とも思ったけれど、となりのたつきは別段気にした風もなく、頭の後ろで両手を組み合わせて遠くの空を見ていた。
そして不意に思い出したかのように今の質問を自分にして。答えあぐねていたら、何かを察したように嫌そうな顔をし、ち、っと舌打ちをした。
『なーんかムカツク』
『ご、ごめっ……』
『って、違うよ井上さんじゃないよ……ってあーーいいづらっ!』
自分が責められたのかと思い謝ると、たつきは慌てて両手を振りながら否定し、かと思うといきなり叫ぶ。
ビックリした自分の横で彼女は足を止めて、びし、と自分を指差したのだ。
『よっし、今日からあんたは織姫!そう呼ぶからよろしく』
『え、え、ええっ?』
『でもってあたしも名前で呼んで。竜貴。タツキ、って言うんだ』
親父がすんげえ格闘技好きでさ、こんな名前つけられたよ。
同じ女の子なのに、全然違うよね。
そんなことを、言って。
『どうして、知ってるの?』
『え?』
『あたしの名前』
クラスでひっそりと過ごしていた自分の名を。いつだってクラスの中心で笑っていた彼女がどうして。
するとたつきは笑う。少しだけ赤くなりながら。
『だって織姫の髪の毛、すっごい綺麗だったんだもん』
だから名前覚えたって。
(お兄ちゃん……)
それがどれだけ嬉しかったかなんて、伝えたくても伝えきれない。
それから、たつきはいつも傍にいてくれた。
自分の髪を切った人たちやその他が、同じ理由で自分を傷つけようとした時も、いつだってたつきが庇ってくれた。
1人じゃないって教えてくれた。
「夏休み終わっても花火できるよね」
「ああ、じゃーさ、コンビニとかで大量に買い込んでやろーぜ?一護とかも誘ってさ」
「うんっ!あ〜楽しみだなあ」
ずっと傍にいて、守ってくれた。たくさんの嬉しい気持ちをたつきから貰った。
だから。今度は自分が、一護を守る。
その為の力も、あなたが教えてくれたこと。
「んじゃ一護たち追いかけっか!」
たつきが笑う。自分も笑う。
分け目をかえた前髪が、さらりと風に揺れた。
戦いに行くんじゃない。守りにいくんだ。
たつきから貰った大切なものを、今度は自分が一護に。絶対に怪我なんかさせない。守りきってみせる。
そしてルキアを連れてこの場所に帰ってきて、皆で秋茜を見に来よう。
想い出を懐かしむのではなく、重ねるために。
その為ならば、声をあげて叫ぶ。
「椿鬼!!」
兄がくれた6枚の花びらを象った小さなヘアピンが光り、ぱきんと散ったかと思うとそれぞれが力を持つものへと変化する。
相手の存在を断ち切る力を持つ椿鬼の名を呼ぶと同時に、空間が裂け始める。きぃぃぃん、と、聞こえない領域に近い音を奏でながら。
「弧天斬盾!…………私はっ」
傷付けることは嫌い。傷付く人も見たくない。
それがどれだけ痛いかなんて、自分が一番知っている。
だけど守るために。護るために。
眼差しを無意識に強める。兄が、たつきが好きだと言ってくれた髪が生み出された風によって煽られ、頬をかすめた。
「拒絶するっ!!」
破壊する力すら、護るためのものならば。
叫ぶ。
Fin
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Comment:
やっとやっとの織姫嬢のお話。
前作とちょっとつながるイメージで。
こういう、無二の友情、互いに思う気持ちが大好きです。
でもって一護のように、そういうことを抜きにしても「男」でいようとするところが大好きです。
相手のために。自分のために。
動ける力がすごいと思う。
そんなわけで大好きだBLEACH。
20040416up
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