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●邂逅 |
気になるのはどうしてだろうか。
自分で自分に聞いてもわからない。
(わからないなら……確かめるまで!)
だから花は駆け出した。
「葉月くん、一緒に帰ろう!」
+++邂逅+++
花が葉月珪と初めて出会ったのは、入学式の日だった。
どきどきする気持ちのままに、少し早めに学園に着いて校内探検をしていたところ、
学園の裏に教会を発見したから花はそれに惹かれて近寄った。
人の気配を感じない風景。
少しだけひんやりとした空気。
足元には……溢れんばかりのクローバー。れんげ草? それともシロツメクサ?
花は教会の扉に手をかけて廻そうとしたがそれはがちり、という音を立てて右にも左にも回らなかった。
しばらくガチャガチャと頑張ってみたけれど、根性だけでなんとかなるものでもなく結果として花の手に
鉄の匂いをうつしただけだった。
「ちぇー……」
なんだかとても惹かれるのに。
どうしても中を見てみたい、そんな気持ちになるのに。
元々花は好奇心が強い。
それも慎重な性格が伴っていれば良いが、向こう見ずなところがある為それは暫し危険を伴う事も多々あった。
言うなれば、目の前のボタンはとりあえず押してみようタイプ、なのである。
(でも、それだけじゃない)
元来の好奇心とは別の気持ち。
何かを確かめたいような……そんな気持ち。
――――懐かしい?
「きゃっ!」
首をひねりながら後ろを振り返った瞬間、何かにぶつかって花はしりもちを着く。
不意打ち&元々小柄なせいもあってそれはかなりの勢いを伴い……花はくらくらする頭をふって
一番痛むおしりと鼻の頭をさすった。
「いたたたた……」
「大丈夫か?」
ぶつかったモノは、どうやら人だったらしい。
しかも、声のトーンからすると男の子。しかもその声は極上で。
声の主を見上げる。逆光で顔が見えない。
髪がきらきらしてるのは、太陽のせい……?
(まぶし……)
「どうした? 手、貸せよ」
「あ、ハイ」
普通、幾ら転んでも女の子に気軽に手なんて貸すだろうか。
そんなことを思いながらも花はその手を拒めなかった。
「ごめんなさい、先輩。私急いでて……」
「俺も一年」
花の腕を引っ張って助け起こしながらその男子生徒は答える。
花はようやく立ち上がれて彼の姿を確認する。自分より遥かに高い背、色素の薄い髪、そして……グリーンの瞳?
「あ、そうなんだ! わたしも今日からこの学校に通うの、宮内 花って言います、よろしくね!」
同級生と言う事がわかり急に親しさを覚えてそう言う花に、ぶつかった本人は特に表情も変えず
花に体育館に急ぐよう促す。
君は? と聞く花に「ここで入学式」などと訳のわからないことをいい、花を困惑させた。
一緒に行こうよ、と声をかけようとした瞬間、入学式の開始を告げる鐘がなって花は慌てた。
「あ、じゃあ又ね! えっと……」
「……葉月、珪」
葉月くんって言うんだ。ハヅキ、ケイ。
綺麗な名前だと思った。好きな響き。
花は何故か嬉しくなりながら又ねと告げて走り出す。
そして式が終わって、新しいクラスに向かう途中で親しくなった藤井奈津実に聞いて初めて知ったのだ。
彼、葉月珪がかなりの有名人であることに。
まず第一に彼の美貌。
美人は3日で飽きる、とは良く聞くけれど、彼にそれは当てはまらなかった。
何と言うか、日によって美しさの「質」が違うのだ。
整いすぎた美貌は時に冷たさを感じさせるけれど、彼の綺麗さはどこか温かさがあって。
それは、彼の纏う色彩の淡さかもしれない。
そして噂ではバイトだけれどモデルをやっているというのも充分頷けた。
次に彼が成績優秀である事。
特に塾へ行ったり、授業を熱心に受けている素振りは全く見られず、それどころか
授業は殆どぼーっと窓の外を眺めているか寝ているとの事。
なのに定期テストや全国模試では常にトップクラス。
そして勉強が出来るやつは運動が不得手。というやっかみにも似たジンクスをすら覆し。
勿論苦手な種目もあるらしいが、それですら一般的な数字よりは遥かに秀でていた。
そして最後にその人となり。
どうやらコレが前途の項目と相反するものらしく……一言で言えば「ヤな奴」らしい。
話し掛けても、返事が短い、会話にならない。
誘っても「やめとく」の一言。
笑うところは見たことがなく、常に1人で行動しているとの事。
んん? と花は首を捻った。
「だって藤井ちゃん、わたし助けてもらったよ?」
さっき、ぶつかって。
花がそう言うと、藤井は「奈津実でいいって」と言いながら渋い顔を作った。
「王子サマの気まぐれじゃないのー? だぁって人が困ってたってしらーっとした目で素通りする奴よ?
話し掛けても『別に』とか『ああ』とか文字数にしたって多くて3文字よ3文字! そんなん会話になんないっつーの」
激しく自分ツッコミをする奈津実の姿を見ながら、それでも花はどこか納得行かなくて。
天狗? 自己中? 王様??
(違う)
何故違うと思うのか。
だってたったの一回しか彼とは話していない。
それから、同じクラスだとわかってから早1週間。
奈津実とは中学から一緒だったみたいに一気に意気投合したものの、葉月とは相変わらず
一言も口をきかない、いや、きけないまま。
それでも気になった。
(何が?)
わからない。
でも話したいと思うんだ!!
だから追いかける。
いつもHRが終わるとさっさと教室を出て行ってしまう彼を。
(だってまだお礼も言ってない)
昔ながらの冷たいコンクリートで出来た廊下を走る。途中遠くで担任の先生――氷室先生だったっけ?――が、歩いてくるのが見えたから慌てて速度を落として「さようなら」なんてしおらしく言ってみたり。
そして角を曲がると再び走り出す。
昇降口のロッカー、1年4組の棚。
ぱかりと自分の蓋を空けるとおろしたてのローファーを取り出して、代わりにつま先に赤いラバーのついた上履きを上段に放り込む。
駆け出す間際に「葉月」のところを同じく開けて――やっぱりもう靴がない。
(足、はや……っ!)
自分も遅い方だとは決して思わない。
けれど153cmしかない自分と180cm近くあるであろう葉月とでは、圧倒的にコンパスが違う。
(負っけるもんかぁ)
加速度あげて、猛烈ダッシュ。
今日こそ声をかけるんだ。そして知りたい、本当の君を。
真新しい制服や、部活のユニフォームの群れをくぐりぬけて校門を飛び出す。
そして真っ直ぐ続く坂道を見下ろして――居た。
本当は、走ったせいでぼさぼさになった髪の毛も整えて、まがっちゃったスカーフも直してから声かけたいけど。
今はとにかく話したい。
「葉月くん!」
めいっぱいの声で呼びかける。
まず先に周りの人が振り返る。大きな声で呼んだあたしを見て、「何?」って表情で。
それでも花は待った。自分の呼んだ人物が振り返ってくれるのを。
葉月はぴたりと足を止めて、やがてゆっくりと花を振り返った。
花に向けたその顔は・・・酷く迷惑げな表情を浮かべていたから花は少しだけ気持ちが萎むのを感じる。
花はゆっくりと、跳ね上がった前髪を直しながら葉月に近づいた。
そして手前で止まって、声をかける。
「葉月くん、一緒に帰ろう!」
何事かと思った。
背後からかけられた、自分の名を呼ぶまだ幼いその声。
本当は振り向かなくてもわかった。声の主が誰かなんて。
だから余計に振り向く事が躊躇われた。
振り向いた自分の眼に映ったのは、平均より下回った小柄な背。
背の中ほどまであるまっすぐな髪を揺らして、肩で息をしながら、でもその顔に浮かんでいたのはやっとつかまえた、と言ったようなあどけない笑顔。
声の主は怯む事無く葉月に近づき、身長の差を埋めるべくやや背伸びをしつつ顔をあげて葉月にこう言った。
一緒に帰ろう、と。
葉月は暫く考えた。
誘われた意味と、そして自分のとるべき行動を。
そして出した結論。
「……やめとく」
言われた花は激しいショックを受けた。
真正面から誘って、真正面から断られるとは思っていなかったから。
『天狗になってるよ』
奈津実に言われた言葉がふいに脳裏をかすめる。
花はその声を振り払うように、ぶるぶるとまるで子犬のように頭をふった。
葉月はそんな彼女を不審そうな眼差しでみると、「じゃあ」とだけ言ってその場を去ろうとした。
から。
「あのっ、ありがとね!」
せめて伝えたかった言葉だけでも。
花は葉月の背中に向かってそう言葉をぶつけた。
葉月が振り返る。
「えっとその……入学式の時」
「……?」
「起こしてくれたから」
本当に何に対して礼を言われてるのかわからないと言った風な葉月の態度に、花は自分だけがそのことを大切に思っていたと思い知らされて……ちょっと恥ずかしくなった。
(失敗だったかなあ)
友達になろう大作戦第一弾。
色々、うんうん無い頭を回転させて計画を立ててみたりしたけれど、どうも作為的なのは自分にあわなくて、結局今みたいに直接声をかける方法を選んだのだけれど。
周りの人間が、興味深そうに自分と葉月を見ているのがわかる。
耳に聞こえるのは、うわーあのちっちゃいコ勇気ある、とか、葉月が相手にするわけねえじゃん、とか。
花はさすがに居たたまれなくなって、頬に落ちた髪を耳にかけて精一杯笑顔を作った。
「ごめんね呼び止めて……じゃあ又明日ね!」
へこんだかも。
気持ちしょぼしょぼとしながら歩き始めて、葉月の横を通り過ぎたとき。
声が、聞こえた。
「……大丈夫だったか?」
びっくりして顔をあげると、確かにその目は自分をみていた。
「え?」
「転んだところ……」
「えっ!? あ、うんっ! 全然平気!」
先ほどのつれない態度が信じられないような、自分を気遣う内容の言葉に動揺して、意味もなく腕をぶんぶん振って答える。
すると葉月は「・・・変なヤツ」と呟いて・・・歩いていってしまった。
『大丈夫だったか?』
冷たくなんかないよ。
花は葉月の背中を見ながら、ここ数日に聞いた葉月に関する数々の言葉を否定する。
ちゃんと思いやる事を知ってる。本当は、凄く優しい人なんじゃないだろうか。
「口は悪いけどね」
1人ごちて、何故かふふっと笑いが漏れた。
友達になりたい。
もっと、彼のことを知りたい。
カッコいいから?
頭がいいから?
運動もできるから?
そうじゃなくて、そういうんじゃなくて。
本当の君を知りたいんだ。
生身の葉月 珪を。
花は小さくガッツポーズを作って、今度こそ元気良く歩き出した。
どんどん知りたい。
その綺麗な緑の眼の中に、映っているのは何?
どこか懐かしさを覚えるその色に、自分が映れたらどんなに素敵なことだろう。
(懐かしい?)
教会を見つけたときに感じた気持ち。
それと同じ間隔を葉月の瞳に思うなんて……何だか変だ。
花は少しだけ小首をかしげて、再び歩き出した。今度は小走りに。
いつかこの坂を君と歩こう。
遠くに見える海を見ながら、手を伸ばせば届きそうなこの空に溶けながら。
ああ、とか、別に、じゃなくて、もっと沢山言葉を交わそう。
「諦めないもんねーーーっだ!!」
そして花は、友達になろう大作戦第二段を練り始める。
次はもっと、葉月と会話を交わせるように。
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二次創作どころか三次創作と言ってもいいんじゃないでしょうか、って感じの
完全オリジナル主人公、宮内 花ちゃん登場です。
桃香よりお転婆で元気、多少口が悪く向こう見ずなのが玉にキズ。
別に勉強が特別できるわけでも、器用なわけでもない、本当に普通の女の子。
でも芯のしっかりした女の子です。
元気な女の子が書きたい!と思って生まれたNew主人公ちゃんですが、
すでに桃香ちゃんがうちのオフィシャル(笑)主人公ちゃんなのでオリジナル主人公扱いで。
オリジナルなので好き勝手やります・・・ふふふv
こっちの葉月くんは裏に相応しく、ときめきモードではない時の冷たさ全開になる予定。
なので暫く本当の片想いが続くのでは、と思ってますが予定なので未定です(汗)。
あんまり主人公に甘くない王子も書きたかったので・・・。
*Back*
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