** Happy C×2 **
 ●瞳の合図


 冷たく乾燥した空気。
 いつもより強さを増した風。
 高い空。
 そして、握った手から伝わる彼の手の温度。

 全てが、季節が移り変わった事をわたしに教えてくれる。
 卒業して、初めての冬がもうすぐやってくる。今年はどんな冬になるのかな。


 「恋人」になって、初めて過ごす冬。
 今迎えている秋。
 でもそうじゃなくて、そんな大きなものじゃなくても。
 たとえば今日、11月13日。
 明日の、11月14日。
 それだって、貴方と両想いになって初めて迎える11月13日と14日なんだよね。

 当たり前なんだけど、そんな事にすら幸せを覚えて頬が緩む。
 馬鹿かな、わたし。



?」


 1人笑うわたしを、隣りにいる珪くんが不思議そうに見てる。
 そうやって名前を呼んでくれる声が好き。
 つないでくれる手の大きさが好き。
 どうしたら、気持ちの全部を伝えられるのかな。

「何でもないの。ただ……」
「ただ?」
「……嬉しいなって」

 何が嬉しいんだってって、珪くんがわたしの言葉を繰り返す。納得いかない顔で、言葉の続きを待つようにわたしを見つめたまま視線をそらさない。
 綺麗な、ヒスイの瞳。改めて凄く不思議な色だなって思う。

 そういえば、昔誰かが言ってたっけ。
 よく日本人の瞳が神秘的って言われるのは、感情が色に表れないからだって。
 色素の薄いブルーやグリーンの瞳は、感情が高ぶると一段濃い色になるって。
 でも日本人の瞳は茶色とか黒だから。
 その変化がわかりにくくて、だから「神秘的」って言われるんだと。



(珪くんも、そうなのかな)



 わたしの言葉を待つ珪くんを、思わずじーっと見返すとその頬が少し赤くなるのがわかった。
 いつもは逆の立場だから、わたしは嬉しくてつい意地悪をしたくなってしまって、彼の前にまわりこみ更に珪くんの顔をじーっと見つめた。
 彼は一瞬びっくりして、わたしの視線が自分に固定されているのに気付くとふいと横を向いた。でも、頬は相変わらず赤いままだったから、わたしはおかしくて、嬉しくてつま先立ちで顔を近づける。


「…………!」
 さらに赤くなる、顔。



(うわあ、うわあ、おもしろい〜っ!!)



 珪くんはいつもこんな感じなのかな。
 自分の一挙手一投足にいちいち反応するわたしを見て、こんな気持ちになってるの?



(珪くんが意地悪なの、わかった気がする)



 目の前で赤くなって視線をそらす珪くんは、今まで見たことが無いくらい可愛くて、思わずぎゅーってしたくなる。
 わたしはさっきの瞳のことが気になって、彼のもそうなのか確かめたかったけど彼の瞳は遠くを見つめていてわたしからは見えなかった。

「おまえ……あんまり見るな」
「何で? …………えいっ」

 普段と逆の立場が嬉しくて、調子に乗って珪くんの腰に腕を廻して抱きついてみる……と。





「珪くん?」





 硬直する、身体。
 絶句する珪くん。
 ただただびっくりして、顔赤くして、まん丸な目をしてわたしを凝視してる。

 その瞳は。









(う、わ……)











 その色の変化を認めた瞬間、わたしが絶句する。
 薄い翡翠色が、じわっと濃くなってより鮮やかな緑になる。
 その緑の鏡に、映されていたのは他でもないわたしで。


(うわわわわっ! 本当だったんだっ!!)


「ご、ごめんっ!」


 あまりに如実なその反応にわたしがびっくりして慌てて身体を離す。冷静に考えれば、かなり大胆なことしちゃったかも〜っ!!
 さっきまでの突撃具合はどこへやら、わたしはくるりと珪くんに背中を向けると熱くなった顔を隠すように両手で抑える。

 きっとわたし、耳まで真っ赤だ――。



「変だ、おまえ」

 ええその通りです。
 だって、気になっちゃったんだもん。

 わたしがさっきの瞳のことを離すと、試されたと感じた珪くんは少しムッとした顔をしたけどすぐに逆にわたしの顔を覗き込んだ。
 目の前に、珪くんの顔。


(うわわわわわわっ!!!!)


 瞬間的に赤くなったわたしを見て、珪くんの瞳に意地悪な色が浮かぶのがわかる。さ、さてはさっきの復讐ねっ!?
 わたしは負けてなるものかと、うんとお腹に力を入れて珪くんを見返す。傍から見たらわたしたち、かなり変なんだろうなあ(公道でにらめっこ状態?)。


 でも、でも。

 時間が1秒、2秒と経てば経つほどおかしな熱が身体を浸透する。
 珪くんを見つめるわたしの瞳から、「想い」が脳を伝って全身に伝達され、熱に変わって身体を支配する。









 ――コウサンシナサイ
















 本能の、SOS。


















「ごめんなさい〜」

 声だけじゃなくて全身がぐにゃぐにゃになって、わたしはその場にへたり込みそうになる。
 降参の合図と共に視線をそらそうと右を向いたわたしの頬を、珪くんの左手が受け止めて、それを許してくれなかった。

 びっくりして見上げれば、からかうような翡翠の瞳。
 わたしが慌てて左を向こうとすると、今度は右手でそれを許さなかった。


(あうっ、どどどうしようっ)


 右にも左にも動けなくて、パニックになったわたしはおろおろと上手く働かない頭で現状からの脱出方法を一生懸命考える。
 こらえ切れずにって感じの笑い声が、頭上から漏れ聞こえた。
 く、悔しい……。

「日本人の瞳が、なんだって?」

 からかうようにそう口にする珪くんは、凄く生き生きとしてるんだ。
 まるで小さい子がおもちゃを見つけたみたいに、瞳をきらきらさせて、わたしの反応を待ってる。
 わたしはそんな珪くんを見るたびに、悔しくて反撃を試みるんだけど今まで一度だって成功した試しがない。
 そして、今も。

「か、変わってないハズだもんっ! 全然どうっ、動揺なんてしてないもんっ!」
「色なんか見なくたって、おまえくらいきょろきょろしてたら簡単にわかる」

 言いながら又笑う。折角動揺の伝わりにくい茶色の瞳でも、わたしじゃ全然意味ないって事ですか……。
 わたしは、わたしの頬を挟む珪くんの手を掴んで、完全に降参宣言。

「だめ、許さない」
「ええーっ!?」

 その言葉が甘く響いて、益々わたしはどうしようもなくなる。どうしてどうして、この人はこんなにもわたしを支配するんだろう。
 自分の言葉より、この人の言葉がわたしの伝達神経全てを支配する。逆らえなくて……逆らいたくないって思ってしまう自分がいる。
 このまま行ったら、どうなってしまうのかな。
 時々それが、堪らなく怖くなる時があるんだ。


「どうした……?」


 急に黙り込んだわたしを心配して、さっきまでの笑みを浮かべた顔を一瞬にして探るような眼差しに変える。
 だけどうまい言葉が見つからなくて、ちょっとだけ泣きたくなる。そしてわたしはただ、珪くんの目を見つめた。



「こんなに好きで……どうしたらいいのかなあって」



 そう想いを口にした途端、間近で見た彼の瞳の色が変わった。
 言葉より表情より、一番早い彼からの返事。
 応えるように赤くなったわたしの顔をみて彼の頬にも赤みがさし、フイと横を見てふくれたような声をだした。



「おまえと会う時……サングラスする事にする」




 ぼそっと拗ねたようにいったその一言が可愛くて可愛くて。
 初めて珪くんに勝った気が、した。













Fin



--------------------
Comment:


4000HitThanks!の王子v主人公ちゃんの甘々SSです。
もーうバカップルです(恥)!!!でもでもバカップル万歳な片瀬もカナリいっちゃってます(笑)。
とにもかくにも皆様ありがとうございましたvv
甘い気持ち、届きましたでしょうか??あたいは書いてて超恥ずかしかった(笑)!!


そしてこのお話は野原の亜利さん宅へお嫁入りしました(030417)。


※up日未詳


*Back*

copyright (c) 2007 Happy C×2