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●日常 |
いつもの朝。
あたしはちょうど焼きあがったパンに手を伸ばして、自分で薄くバターをぬる。
ちゃんがあたしの好きな甘さのホットミルクを入れてくれたから、それに手を伸ばして「ありがとう」って言う。
そうすると
ちゃんは、本当に優しく笑うんだ。
毎日、だよ?
ちゃんが毎日あたしにしてくれることに、毎日「ありがとう」って言うのに、それでもまるで初めてそう言われたみたいに嬉しそうに、笑うんだ。
そのたびにあたしは胸の真ん中がくすぐったくなって、照れる。
「目玉焼き何個?」
冷蔵庫を開けながら
ちゃんは聞いてくる。その手には、すでに卵が2つ握られてて。
「そんなに食べたら太っちゃうよー! 1コでいいの」
「ちゃんと食べなきゃだめだよう……」
言って悲しそうな目をするから。
あたしは卵一個分をお昼で調整しよう、って頭の中で考えて首を縦に振った。
とたん、又嬉しそうにするし。
「ちゃんは食べないの?」
「ん? 珪くんが起きてきたら一緒に食べるの。昨日遅かったからまだ寝てるみたいだし」
「……今日珪くんお休みだっけ?」
「ううん、9時くらいには工房に行くって言ってたわ。だからそろそろ起きてくると思うんだけど……」
言いながら器用に片手で卵をフライパンに割り入れる。
卵2個持ってるのに。
その仕草にあたしは思わず目を奪われる。
ちゃんは結構器用だ。
ぼーっとしてるからドンくさいのかな、とか思うけど、意外や意外、やる時はやるのだ。
そのかわりどうでもいいところでドジだけど。
「ね、珪くん起こさないとじゃない? 絶……っ対! 起きないと思うの」
あたしがめいっぱい力をこめてそういうと、
ちゃんはちょこっとだけ困った顔して笑った。
そしてフライパンから出来たばかりの目玉焼きをするりとお皿にうつして、あたしの方へくれる。
「うーん……そうね、そろそろ起きて貰わないと、ね」
そんなことをあたしたちが話していたら、噂の主がのさーっとキッチンに現れる。
そんな珪くんの前に差し出されるコーヒー。
あれ?
ちゃんてばいつの間に。
そして珪くんはまるでそれを当たり前のように受け取って。
ちゃんも何も言わずに珪くんの分のパンを焼き始める。
???
あたしは目玉焼きの黄色い目玉をつつきながら、そんな二人をこっそり見つめる。
珪くんはあたしを見ると、眠そうな目をさらに細めて大きな手のひらであたしの頭をなでた。
一見細く見えるけど、意外に重量のあるそれに髪の毛をくしゃくしゃにされる。
「せっかく梳かしたのにーっ!」
わざと大げさにふくれてそう言うと、珪くんは目に見えてしゅんとする。
そしてぼそりと「……悪い」って呟くから、あたしは可哀想になって椅子から立ち上がって背伸びする。
珪くんは黙って、伸ばされたあたしの手にねぐせだらけの頭を触られた。
「珪くんパン1枚? 2枚??」
「1枚で、いい」
「……ちゃんと食べなきゃだめだよう」
しっかりと2枚の食パンをトースターにいれていた
ちゃんが悲しそうな声をだす。
すると珪くんは一瞬の沈黙の後「……じゃあ2枚」と頷く。
……どこかで見たな、この風景。
そうして穏やかな時間が過ぎる。
もそもそとあたしが食べてる間に、珪くんはあっという間に2枚のトーストと目玉を2個、そしてサラダにコーヒーを平らげると洗面所に消えていった。
その間に
ちゃんも一度キッチンから姿を消して、奥の部屋からぴしっとアイロンのかかったハンカチと、珪くんがいつもしているリングをテーブルの端に置いた。
洗面所から戻ってきた珪くんは、あたしでも一瞬見惚れるほどかっこよくなって。
ねぐせはちゃんと直ってたし(と、いうかまとめた?)、まだ少し眠そうではあったけれどあたしの大好きなヒスイの瞳ははっきりと
ちゃんを捕らえていた。
そしてテーブルに置いてあったリングをいつものように決まった指にはめて、用意してあったハンカチをポケットにしまう。
「じゃ、行ってくるから……」
「うん、気をつけてね」
頬に軽く、キス。
毎日繰り返されるそれにいい加減慣れつつあったけれど、やっぱり何だか気恥ずかしいんだ。
あたしでも見ちゃいけない気がして、なんとなく視線を下にする。
「おまえも気をつけて行けよ、学校」
「珪くんみたいにぼーっとしてないし、ちゃんみたいにトロくないもん」
顔を離した二人がこちらを見てそんなことをいうから、照れ隠しも含めて軽口をきいてみる。
二人が揃って口をつぐむ。
そしてどちらからともなく「どっちに似たんだろう」ってぼそりと呟くのが聞こえたけど……そんなの決まってる。
「反面教師」って言葉、知ってる?
あたしがしっかりしないとなの、この家では。
「ね、珪くん珪くん」
「……なんだ?」
「今度あたしにも何か作って!」
おねだりしたあたしに、珪くんがゆっくりと歩み寄って身を屈めた。
「……パパ、って呼んだらな」
ぷう、とふくれるあたしにに笑いかけて、身をおこして玄関へと歩いていった。
珪くんを無事送り出した
ちゃんがキッチンに戻ってきて、まだ頬をふくらませたままのあたしにふんわりと笑いかける。
「あんなこと言ってるけど、絶対今日何か作ってくるわよ」
本当にあなたに甘いから、といって嬉しそうにクスクス笑う。
そうかなそうかな。
あたしからしてみたら、珪くんが一番甘いのは
ちゃんだと思うんだけどな。
「そ、そんなことないよ、栞ちゃんが私と珪くんの一番なんだから!」
あたしの言葉に真っ赤になりながらも、何故か少し怒ったように言って珪くんにしたみたいに頬にキスをくれる。
「おかーさん栞が一番大好き」
うそばっかり。
知ってるもん、
ちゃんが誰を一番好きかなんて。
それでも嬉しかったから、あたしも、
ちゃんのほっぺにキスを返す。
嬉しそうに、染まる頬。
可愛いなあ。
ちゃんの薬指には、珪くんが贈ったというリングがはまってる。
好きな人に、一生を共にする誓いの証を作ってもらうというのは、どんなに幸せだろう。
いいな、とあたしが言うと、右手でそれを愛しそうに触りながら「栞ちゃんにも現れるわよ」って。
簡単に言ってくれるなあ。
目の前に、最高のカップルがいるのに。
あたしの理想のレベル、わかってる?
でも悔しいから、絶対そんなこと言ってやらないんだ。
「行ってきます!」
「栞ちゃんハンカチハンカチ!!」
勢いよく玄関をあけて飛び出そうとしたあたしに、背後からお声がかかる。
へへ、忘れちった。
「じゃあね、行ってくるね」
「気をつけてね?行ってらっしゃい!」
ちゃんから渡されたそれをスカートのポケットにしまって、あたしは今度こそ走り出した。
揺れるプリーツスカートの裾。
胸には、羽をあしらった校章がついてる。
赤いスカーフを風になびかせて、あたしは今日もこの道を歩く。
あのね、学園の裏庭の方に、教会があるんだ。
いつもは閉まってて絶対中に入れないんだけど、運命で結ばれた二人がそこを訪れると不思議と扉は開いていて。
教会の鐘がなるときに未来を誓うと、二人は永遠に結ばれるって伝説があるの。
その話を二人にしたとき、何故か二人は顔を見合わせて懐かしむように笑ったんだ。
理由を聞いても教えてくれなかったけど、だけど「信じたらきっといいことある」って言うの。
子どもじゃないんだからさ、そんな伝説なんて信じないよ。
でもね。
珪くんと
ちゃんが出会ったはば学で。
あたしも恋が出来るかな。
そんな伝説も愛しくなるくらい、大好きな人に会えるかな。
どこまでも続く真っ青な空を見上げながら、学園に続く坂道を歩く。
あたしも素敵な誰かとめぐり合えるように祈りながら。
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Comment:
おくればせながらの15000HitsサンクスvSSです。
なんでしょう……なんなのでしょうか(笑)。
えと、はい。その後のお話です。番外編です!!
絶対娘が生まれると思うのですよ!!そして溺愛(笑)。
で、娘の前でもいちゃいちゃしてそうなイメージが。
そんな両親を見て、憧れつつも妙にしっかりとした娘さんになる気がします(笑)。
なんでいきなりこのテーマでSSを書いたのか不明。
あ、そうだ。第三者の視点で二人を書きたいって思ってこうなったんだ!
(秘密の花園の女の子かわいそうだな、から発展しました)
いきなり結婚してるし……(笑)。
※up日未詳
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