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●温もりと揺れる気持ち |
頭の位置が、ふうわり揺れて目が覚めた。
(……んん?)
まだぼやーっとしてる意識のまま、暫く様子をうかがう。
えっと、ここは森林公園で。いつもみたいにぼーっとしてて、お日様あったかいなあって眠くなってきて。
(――――っ!)
うっすら開いた視界に見えたのは、珪くんのセーターらしきもの。
ってわわわわわわたし! ううううう腕枕してもらっ、もらってるし!
ぴきりと硬直したまま、絶句する。あああああ記憶! 記憶がない!
いつもなら眠くなるのは珪くんが先で、わたしが隣でぼーっと起きるの待ってたりとか、たまに膝を貸してあげたりとかはあったけれど、こんなこと初めてだよ。
珪くんの腕の付け根に、俯くように頭を預けて眠っていたらしく、幸いにも正面から珪くんを直視せずにすむ。こ、このまま寝返りを装って逃げよう。うん、そうしよう。
頭を預けている場所が少し不安定なこともあって、体重を少し背中に預ければつられて頭はごろりと後ろに流れる。感覚でそれを計算して、そろそろと重心をずらそうとしたら。
(?)
ふよ、と、襟足にあった珪くんの上腕の筋肉が動く。つられて、こてりとわたしの頭は元の位置に戻って。
(う、うう?)
なんだろう。今のはなんなんだろう。
しばし元の位置に置かれた頭で考える。き、気のせいかな。
落ち着いたあたりから、もう一度重心を後ろに傾ける。ころ、の「こ」まで上手く転がって、よしこのままって思った途端、又も珪くんの腕がわずかに動いて又、止まる。
止まったかと思ったら、もうちょっとだけ珪くんの力が強くなって元の位置にころり。
(あ、あああああああれっ?)
もしかして。もしかして。
時間を置いて、同じように繰り返す。
そのたびに、珪くんの動きも同じで。
(やっぱり)
転がらないように、支えてくれてるんだ。
気付いた瞬間にぶわって体温があがる。うわ、うわ、どうしようどうしよう。
しっかりと両目を開けて、だけど寝たフリを装う。だってなんかもう、今起きたって上手く会話が出来る自信なんてない。
胸の奥があったかくて、くすぐったくて、いたずらっ子みたいに同じ動きを繰り返す。
そのたびに珪くんの腕は絶妙な力加減でわたしの頭を支えてくれ、元の位置に戻してくれて。
(えいっ)
思い切って、大きく寝返りを打ってみた。
そしたらちょっと慌てたみたいに、枕になってた腕がくるんって折り曲がってストッパーになる。
不覚にも、抱きしめられるような形になって――息がとまった。
「おい……寝相悪いぞ、おまえ」
少し呆れた、でも思いっきり優しい声。
本当にこのまま、ずっとずっとここでこうしてたくなるような、声。
頬にかかった髪を、ひんやりとした指が後ろに攫っていく。
けれどその指はわたしの熱を奪うどころか、逆の効果をもたらして。
どうしよう。
(ぎゅうってしちゃいたい)
だけと、わたしにはそんな権利も勇気もないから、寝たフリしか出来ない。
わたしが寝続けている限り、珪くんはきっとわたしの体勢を心配して寝ずの番をしてくれる。つまり、それは珪くんがお昼寝できないってこと。
起きたよ。ごめんね。
それだけを言えば、彼は昼寝をすることが出来るのに。
(ごめんね)
もうちょっとだけ。あとほんの少しだけこうやって甘えていたい。
ごめんねごめんね。今日だけだから。
あと、ちょっとだけ。
(ちょっと……だけ)
「ごめんね、ごめんなさい!」
「別に……構わない」
すっかり日も暮れた森林公園からの帰り道。
わたしはひたすら両手を顔の前で合わせ、珪くんに謝り倒す。わーんっ、結局爆睡だよ〜!
寝たふりだったのがいつの間にか本気寝になっていて、瞬きのつもりで閉じたまぶたは数時間の間きっちりその役目を果たしていた。
目を開けた瞬間飛び込んできた空の色は、茜色。しかも、自発的に起きたんじゃなくて、そろそろ風邪ひくぞって起こされたものだから、もう救いようがない。
がっくりとうなだれながら、珪くんのあとに続く。ほんの、ほんの5分くらいのつもりだったのに。
「いつも俺が眠っておまえが起きてるだろ? あいこだ」
「でも……ううう」
「いいから。それに、おまえの寝てる顔、見るの楽しかったし」
「そんな変な顔してたっ!?」
聞き返せば、一瞬の間の後に「……さあ」って、笑みを含んだ口元で返しながらわずかに肩を震わせる。
え、ちょ、女の子としてはかなりショックなんですけど!
ずっと気にしたままのわたしの頭を、珪くんはぽんぽんと撫でる。それが更に哀れまれているようで、そんなにひどい顔してたのかなあと落ち込んでみたり。
「いいから。じゃあ……今度は俺の番な」
「え?」
「そうしたら、又あいこだ」
だから、気にするなって。
(それって)
又、の約束。
気にしないようにって言ってくれただけかもしれないけれど、今度はってことは、又一緒にこうやって過ごしてもいいよってことで。
(どうしよう)
嬉しい。
どういう形にしたらいいのかわからない頬が、混乱して引きつる。嬉しいけど、今こんなことがあったばかりなのに笑ったりなんかしたら、なんてヤツだって思われちゃうもの。
夕方でよかった。太陽の光が赤いから、きっとわたしのほっぺただって同じ色なのは普通で。
えへへ、ありがとう。
そういうのが精一杯なわたしを、珪くんはうんと優しい眼差しで見返してくれるから。
(大好き)
今は友達だけど。多分、ずっとずっと友達だろうけど。
こうして、一緒にいられる時間が、何よりも大切で嬉しくて。
「又来ようね」
頷き返してくれる笑顔が泣きたいくらに優しくて、夕焼けに負けたフリしてうつむいて歩いた。
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Comment:
お久しぶりのGS葉主です。
やっぱり好きだなー好きだなー。
この二人は書いているとなんだかにんまりしちゃいます。
20090329up
*Back*
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