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●すれ違いの双方通行 |
『なんで俺なんだ?』
電話を切るときに言われた言葉が、胸に刺さる。
(そんなの、好きだからに決まってる)
――言える訳が無い
「ばっ……!」
「なっちん! 声おっきい!」
唯でさえぱっちりとした目を更に見開いて、声だけじゃなくて『驚いた』を全身で表すかのように椅子から立ち上がった親友の口を、伸ばした両手で必死に押さえる。
なっちんはタイミングを失ったように暫く口をぱくぱくさせてたけど、驚愕を怒りに変えたようにすとんと座りなおし、罪のないミートボールにフォークで制裁を加えていた。
「……っかじゃないの!? つかアンタ何やってんの!?」
「何もやってない!」
「じゃあなんでそんなことになってンのよ。ありえないありえない!」
いい足りないように、更に同じ言葉を3回繰り返してからなっちんはフォークを口に運ぶ。それからふと我に返って、慌ててわたしの頭を撫でてくれた。
「ってゴメン。アンタのが辛いよね」
いいよ、って笑って返事しようとして失敗した。すっごい変な顔で笑ったのが自分でもわかって、なっちんの顔が痛々しいものに変わる。
それで余計に自分がどれだけ混乱してるかがわかって泣きたくなった。
事の発端は先週末のこと。
その日、わたしはクラスメイトの男の子に誘われて、二人で買い物したりして遊んだ。もうすぐ文化祭だよねとか、色んな話をしているうちについ盛り上がっちゃって遅くなっちゃったんだけど、そしたら一応おまえも女だしなって気を使ってくれて家まで送ってくれて。
そしたら。
『?』
家の前に、珪くんがいて。
わたしたち二人を、どこか傷付いたような眼差しで見ていた。
ごめん、と、立ち去る珪くんを追いかければよかったんだ。あの時すぐに。
だけどわたしは混乱していて、どうして珪くんがここにいるの? とか、誤解されちゃったんだろうか、とか。
そんなふうに、自分のことで精一杯で。
「でもさ、その後弁解したんでしょ? 言ってたじゃん、あの時」
「言おうと思ったの。なっちんに電話した後、わたしも話した方がいいって、誤解されたまんまじゃやだって思って珪くんに電話したんだけど」
「断られたの?」
ふるふると首を振る。やだな、思い出すだけで泣きそう。
「珪くんも話がある、って……待ち合わせしたんだ」
夕焼けが、やけに綺麗だったことを覚えてる。
空の色を映した海が、橙に染まって。時折打ち寄せる波がきらきらと昼間よりも温かい光を逆に空に返して。
その光を受ける珪くんが、死ぬほど綺麗だった――
『好きなヤツ、いるんだろ?』
そう、言われた時。
真っ先に浮かんだのは他でもない、その言葉を発した人。
好きな人はいる。だから、否定なんて出来ない。
だけど、多分珪くんは誤解していて。その誤解を解くということは、珪くんが好きだと打ち明けること。
押し黙ったわたしに、珪くんは今まで見たことのないような顔で笑う。
伸ばされた手が、わたしに触れることなく彼の胸元で握り締められた。
「協力、するって」
なっちんの眉が寄る。声震えちゃったかな。
「そういうの慣れてないけど、協力するって」
大丈夫、笑えてる。
ちょっとフォークを握る手が痛いけど、大丈夫。
「……バカ」
「なっちん?」
「こーゆー話のときに、笑わなくていいの!」
言いながら、ぺしぺしとわたしの手を叩く。痛い、痛いよなっちん。
それに、なんでなっちんが泣きそうな顔するの。
「いいよ、協力してもらいなよ。本人の協力なら叶ったも同然じゃん」
「なっちん?」
「つかさ、あの男も頭いいくせに大概バカだよね。なーんで気付かないかなっつーか泣かせるなっつーのあああああムカついてきたっ!」
教室の皆が何事かとこちらを見る。幸い、いつも体育館の裏に行っている珪くんの姿はない。
そのことに心底ほっとしながら、わたしはなっちんをなだめた。
なっちんは苛立ちが収まらないというように、再びお弁当に攻撃を始める。あの、あのね、卵焼きにもから揚げにも罪はないと思うんだ。
だけどそれを口にすれば矛先がこっちに回ってきそうでいえなかった。
「なっちん、大好き」
「当たり前じゃん。そんなの」
「あはは、そうだよね」
「同じこと、アイツにも言っちゃいなよ、もう」
首を振る。それをしたら、友達としてのポジションまで失ってしまいそうだから、怖い。
なっちんは一瞬苛立ったような顔を見せたけど、大きなため息を一つ付いてから困ったように笑う。応援してるから頑張んなよ、って、その言葉が何よりも励みになるんだよ。
「」
学校からの帰り道。校門を出てすぐの、まるで海を見下ろすような坂道のてっぺんで名前を呼ばれる。
振り返らなくたってわかるよ。わたしのこと、名前で呼ぶ人なんてあなたしかいないとか、そんな理由じゃなくって。
「珪くん。今帰り?」
「ああ、おまえもだろ? 付き合えよ」
「うん。じゃあ、喫茶店でお茶していかない?」
いいな、それって、珪くんは笑顔で了承してくれる。
珪くんが追いつくのを待って、隣に並んだところで再び歩き出す。縦の距離は揃ったままで、横の距離はちょっと離れたままで。
友達の、その微妙な距離。
いつも行くお店に二人で入って、お気に入りの窓際の席に座る。
笑顔の素敵なおねーさんに、それぞれオーダーをしてドリンクの到着まで待機。
あんなことがあったのに、珪くんは全然前のままで、こうやって声もかけてくれて。
(もしかして、無かったことになってる……とか?)
そうだったらいい。
何もなかったように、あの前の二人の関係でいられたらいい。
「夏休み、あっという間だったね」
「ああ、だな」
「ナイトパレードも花火も行けたし、海にも行けたし、楽しかった」
「ああ」
他愛ない話を繰り返して。あの時はこうだったよね、とか、それはおまえがだろ、とか、思い出したように笑いあう。
わたしは、わたしが話したことやしたことで、珪くんがふと笑ってくれる瞬間が大好きで。一緒にいる時も、電話で話してる時も、いつもは張り詰めたように感じる珪くんの空間が緩む瞬間が好き。
バカばっかりやってるわたしに、呆れもせずに付き合ってくれて、仕方ないなって笑ってくれる。本当はものすごく優しい珪くんが大好き。
「でも、もっと遊べたらよかったな」
いっぱい遊んでもらったけれど、欲張りだなって思うけど全然足りない。
誘った回数を律儀に数えて、今月は誘いすぎかなとか、そういうふうに迷ってるのはわたしだけの内緒だけど。
それはなんとなしに口にした言葉で。勿論わたしは珪くんとの事を言ったつもりだったのに、とたんに珪くんの笑顔がす、っと違う笑みに変わる。
「今からでも、誘えばいいだろ」
何故か冷たい響きを感じて珪くんを見直せばふいとそらされる視線。理由がわからず一瞬言葉を失うわたしの前に、頼んだメロンフロートがかたんと置かれる。まるで、わたしたちの間を遮るように。
しゅわしゅわと音を立てるソーダ水が、はじける泡をグラスにぽつぽつと叩きつける。
いつもなら大して意識しないそれが、なんだかひどく大きな音に聞こえた。
「珪くん?」
「誘えばいい。きっと、待ってる……そいつも」
言いたいことは言ったとばかりに、珪くんはミルクだけをコーヒーに入れてストローでかき混ぜる。からんからんと聞こえる音が、それ以上わたしの発言を拒んでいるようだった。
「えと……あの」
言葉が出ない。喉の奥、熱くて。言いたい言葉が全部とろりと溶けて張り付いてるみたいな。
指先にあたる、冷えたグラスの感覚。こんなに近い距離なのに、どうしてこんなにも遠く感じるの?
なんて言おう。なんていえば、誤解は解けるの?
他に好きな人なんていない、わたしが好きなのは珪くんなのに。
(言えるわけがない)
泣きたくなった。だけど、ここで泣いたらダメだって事くらいわかる。
だからわたしは一気に目の前の緑色のソーダ水を飲み干す。テーブルの向こうで、珪くんがびっくりした顔で見てるのがわかったけど、気にしてなんかいられなかった。
当然のことながら、炭酸水はつん、とする刺激をわたしの鼻やら喉に与えるから大きくむせ返る。こんこん咳込むわたしに、珪くんが呆れたように水の入ったグラスを差し出した。
「馬鹿。喉渇いてたんなら、こっち飲めばよかっただろ」
「……っ、うん、そうだよね、ごめんね」
涙目のわたしを見て彼は笑う。ほんとドジだなって。
(うん、そうだよね)
あんなところ見られなければ、こんなことにならなかったのに。
あのときにちゃんと否定していれば、こんなことにならなかったのに。
「おい、大丈夫か?」
本格的に滲み出した涙に、珪くんが笑みを消して眉根を寄せる。
大丈夫だよ。ごめんね心配かけて。
(――本当は、ちっとも大丈夫なんかじゃない)
だけど言えない。
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正直、頭の中が真っ白になった。
けれど、何か困ったような、真っ赤な顔で唇を一文字に結んだアイツを見てたら、力になってやりたいって思うほうが強くて。
自分のことより、大切なヤツの幸せを願えるようになったのも。
(全部)
おまえがいたから――
何もない休日。寝るだけ寝て、午後には体育館裏のアイツらの為に缶詰でも買ってくるかと考えていた。その程度の予定。
そろそろ起きようかと思った俺の耳に飛び込んできた愛想のない着信音。その音だけを頼りに枕元をまさぐって携帯を掴み取る。液晶に写った名前は――。
「……はい」
『あ、珪くん? わたし、です』
「ああ……どうした?」
離しながら時計を見れば、11時。随分寝たなと思いながら、半身を起こして窓を見る。
カーテンから漏れる日差しは、十分に日が高いことと今日の天気が良好だということを教えてくれていた。
『あのね、もし良かったらこれから臨海公園に行かない?』
「別にかまわない……けど」
弾んだようなの声が逆に気にかかる。もしかして、好きなヤツに断られて俺を誘ってるんじゃないかとか、無理して明るい声を出してるんじゃないかとか。
そもそも、何で俺に電話してくるんだ、とか。
「なんで俺なんだ?」
気がつけば、そのまま口にしていて。
電話の向こうの空気が固まるのが分かる。やばい、やっぱり聞いたらいけなかったのかもしれない。
別にいいけど、と、つけたして待ち合わせの時間と場所を決めると電話を切る。いつもなら楽しいはずのアイツとの電話に、気付けばひどく疲れていた。
(応援するって……決めたんだろ)
アイツが幸せになれるように。笑っていられるように。
こんな色恋沙汰なんて詳しくもなければ得意でもないけど、それでもアイツが笑うためなら俺は。
振り切るようにベッドをあとにし、シャワーへ向かう。頭から冷たい水をかぶりながら、こんなもやもやした感情も一緒に流れてしまえばいいと願う。
大丈夫。感情を隠すことは、慣れてる。
アイツの前でも、笑って応援してやれる。
あの頃のように。再会してから、少しづつおまえが分けてくれる温かなものを。
今度は俺がおまえに返してやれるように。
「楽しかった!」
すっかり日も斜めになった夕方。大観覧車から降りたのをきっかけに今日の終了の合図。
もう二人で何回乗ったかも分からないそれは、飽きることなく毎回新鮮な気持ちを俺にくれる。季節や時間が違えばそれだけでそれぞれの表情を俺に教えてくれて、しかも、コイツと一緒だとそのたびに何かあるんだ。
「そうだな……今度はあいつと来ればいい」
精一杯の強がり。のこの笑顔が、俺だけに向けられるものではないと自戒するためと、彼女への励ましのつもりで呟いた言葉は、予想以上の効力を俺に向ける。慣れきった笑顔の仮面は揺らぐ気配は無いが、いつまで持つかも分からない。
「あいつ、って」
「おまえがヒマな時は又付き合ってやるから」
自分で振った話題のくせに、の口から別の男のことを聞きたくなくて言葉尻を奪うように言葉を続けた。は何か言いたげに唇を動かしたが、すぐに諦めて少し、笑った。
訪れる自己嫌悪。困らせたいわけじゃないのに。
だめだ。これ以上一緒にいても、互いに嫌な思いをするばかりだ。
――だけど、一緒にいたい。
早く別れて帰ったほうがいい。これ以上遅くなると、一人では返せない時間帯になる。
――そうなれば、いい。
(どっちなんだ、俺は!)
「じゃあ、俺はこれで――、?」
の困った顔を見たくなくて背けていた顔を、別れを切り出すために再度向ければ彼女は俯いていた。
歩き出した俺に取り残されるように、さっき言葉を交わした場所に立ち尽くしたままで。俺は慌てて生じた距離を戻り、もう一度名前を呼ぶ。肩で切りそろえられた髪が顔を覆い隠し、表情が分からない。
「、どうした?」
答えはなく、頭が左右に振られるばかり。
けれど。
その動きで、ぱたりと地面に落ちるものがあった。
「――っ!? ?」
頬を包むように両手を彼女の顔に添えれば、ぬくもりを持った雫がそこにはあって。
俺は何が何だかわからずに動揺する。一体どうして。
俺が、あいつと来ればいいなんて言ったから? 来れるものなら来てるだろうに、そういう無神経なことを言ってしまったからだろうか。
ごめん、と謝る俺に再び振られる頭。おまえのこと笑わせたいのに、笑っていてほしいのに、どうして俺は泣かせることしか出来ないんだろう。
「ちが……ごめんなさ」
細い、潰れそうな声で。
それだけを言うとはそれっきり黙りこんでしまった。
俺はどうしていいのかわからずうろたえることしか出来ない。周りを行きかう人たちが何事かとこちらを見、俺はこれ以上をここには居させたくなくて、肩を抱くと海辺のベンチへとを連れて行く。素直に座ったは、小さい肩を更に小さくして俯いたままだった。
大分冷たくなった風が辺りを包み、の細い髪を揺らす。
時折しゃくりあげるが風邪を引いてしまわないか心配で、俺はジャケットを脱ぐとその細い肩にそっとかけた。
「ありがとう」
「別に……」
ハンカチで口元を押さえたままの状態でが顔をあげ、小さく笑う。それを見て死ぬほどほっとした俺は、無意識に息をついて更にが笑った。
「笑うな」
「だって……珪くんすごいほっとした顔するんだもん」
「おまえが泣くからだろ」
ふい、と気恥ずかしくて横を向けば、再びが吐息を零すように笑う。
怒ったの? ごめんね、と、おまえは言うけど、それよりもほっとした気持ちの方が何十倍も大きいんだ。
「何か……あったのか? その、そいつと」
の方は見ずに、遠くの水平線を見つめながら聞く。
からの返事はなく、俺もそれ以上聞けなくて沈黙が広がった。
聞こえるのはただ、防波堤に打ち付ける波の音だけ。時折聞こえるかもめの鳴き声が、どこか遠くに聞こえた。
暗くなっていく空と海をただ見ていて。
不思議と、言葉のないこの空間が居心地の良いものに思える。
「あのね……わたしの好きな人って」
どれくらいそうやって海をみていたんだろう。時間の流れなんて無縁に感じ始めた頃に、まるで独り言のようにが話し始めた。
「わたしに好きな人がいるって、勘違いして、応援までしてくれるの」
「っ、誤解だったら解けばいい。ちゃんと、言葉にすればわかるだろ、そいつも」
あまりの内容にに向き直れば、は困ったように首を振る。
だけど、好きなヤツに他に好きな男がいると勘違いされて、かつ応援されるのって……辛く、ないのか?
「だって、片想いだもん。言っちゃったら、今の関係まで壊しそうで怖いの」
「だからって。いいのか? おまえ……。応援するってことは、おまえのことそういう対象で見てないって事じゃないのか? そいつ」
「……っ、やっぱり、そうかな」
「……悪い。だけど、俺はいやだ。おまえ、こんなに頑張ってるのに、報われないどころか気付いてもいないなんて……いやだ」
優しいねと笑うをたまらず抱きしめそうになった衝動を、握り締めた拳で殺す。違う、違うんだ。優しくなんかない。
自分が嫌なんだ。告げる勇気もないくせに、逃げるばかりで。
応援するフリをしながら、きっと誰よりも上手くいかないように祈ってる。そのくせ、おまえが辛い思いをするのは嫌で――最低だ、俺。
「うん……でも、やっぱり辛いかな」
「当たり前だろ」
「だから」
ぎゅう、と、小さな手を膝の上で握り締めて。
微笑んでいた口元が一瞬震える。けれど、次の瞬間には再び笑みの形を作ることに成功したの顔は、それでも泣きそうに瞳が揺れていた。
「応援、しないで?」
その声は、揺れてなんかいなかった。迷いのない、願い。
彼女が楽になるならどんな願いでも聞いてやろうと思っていた俺は、言葉の意味を考えるより先に頷いていた。ああ、と、短い返事を返したあとで感じる違和感。
「……?」
「わたし、大丈夫だから。自分で頑張るから。そういう風に思われてなくても、今の友達のままでも――いい」
質問も否定も許さないような強い口調に、返す言葉を失う。いつものらしくない、あらゆる返事を拒絶する声。
驚いた俺に、は少し不安げな色を乗せて聞いてくる。
「友達、だよね? えと、わたしたち」
「俺たち? あ、ああ……」
「良かった」
へへ、と笑う。
そしてすっくと立ち上がり、夕日を正面から受けながら俺を振り返って首を傾けた。帰ろう、と。
それはあの日、彼女を応援すると決めた時のそれに似ている。悲しいくらい綺麗な、オレンジの光。
「俺、送ってく」
「ありがとう」
色素の薄い髪が、オレンジに染まって陰影を強くする。風に吹き上げられては戻り、戻ってはまたさらりとなびく。
そのたびに細い襟足が覗いて、こんなにも頼りないくせに、いつだって強くあろうとするがやっぱり好きだと思って。
(ずるいんだ、俺)
応援するフリをして、打ち明けられない気持ちをごまかして。
親友のフリをして、そばに居られる時間を増やしたいだけで。
どっちつかずのくせに、ずるずると今の関係に甘えてる。その代償として受け入れる痛みすら、自己満足でしかないのに。
(おまえを失いたくない)
じゃあ、どうすればいい――?
「送ってくれてありがとう」
「いや……」
いつものように玄関先まで送り届け、別れる。
けれど、今日はいつものようにすぐ背を向けるなんて出来なかった。
がそんな俺をいぶかしみ、きゅるりと回した瞳で聞いてくる。なんでもない、と答えて立ち去ろうとして、やっぱり出来なくて。
「珪くん?」
「俺……いや、何でもない」
振り切るように無理やり笑顔を作り、の頭を軽く撫でる。
じゃあ、と、何か聞きたそうなを残して俺は歩き出し、そして二度と振り向かなかった。
いつかこの役目が別の男のものになって。
あいつを家に送り届けるのも、髪を撫でるのも、別の男の手になっても。
(それでも俺は……)
傍にいられて、本当にあいつが困った時に助けてやれるのなら。
立ち止まって空を見上げる。すっかり暗くなり、星の瞬き始めた空を。
しんとした空気は俺に考えることを要求する。迷い無く、の傍にいるためにはどうしたらいいのか。
本当に、親友のままでいいのか。
彼女が幸せになれるのなら、他の男に預けてもいいのか。
「出来るわけが……ない――!」
衝動で零れた呟きは、誰に聞き留められることなく消えていく。
俺の一人芝居を笑うかのように。
Fin
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Comment:
くらっ(笑)!!!!!
いや、どうしようもなかったです。誤解をといてくっつけちゃおうかなーと思ったのですが、
名義でやっている以上は1stの世界でも卒業までじれじれさせたい!という思いが。
あれですね。親友モードはゲーム世界のにぶにぶ主人公だから成り立つということで。
(言い訳です)
※up日未詳(20070329頃)
*Back*
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