** Happy C×2 **
きらきら星


 女の子は好き。
 可愛くてやわらかくて、見てるだけでほんわか幸せになれる。そして、ぴったんこするともっと幸せ。

 時に「えっち」だの言われる時もあるけれど、別にやらしいことをする訳でもなければ嫌がることを強要してもいない。自分にとってみれば、可愛い動物やぬいぐるみは愛でるだけではなくぎゅうっと抱きしめたいのと同じ感覚なのだ。


 なのに。





(アカン)





 それが出来なくなってしまった、『女の子』が一人。





















 きらきら星





















 そのコが嫌いなわけではない。断じてない。
 むしろ特別にきらきらしているのだと思う。


(なのに、なんでなんやろう)


 特別にきらきらなら、他の女の子よりもぴったんこしてぎゅーってしたいはずなのに。
 想像して、絶句する。無理だ、絶対に無理。
 一足早く訪れた部室で一人、真っ白なカンバスを前に赤面して頭を抱える。赤い紐でくくったエクステが、他の髪より一足先に肩を流れた。


「あれ? クリスくん?」


 かけられた声に、心臓の稼働率が100%を超えてしまう。ばくばくと強さも早さもあげた鼓動が、内側から胸を打ちつけてきて痛い。

「早いね。っていうか、皆が遅いのかな」

 最近気になる女の子No.1の、。同じ学年の女子の名前を覚えるのは当然のこと、と自負している自分だったが、の名前を覚えるきっかけは他の子のそれよりも印象的だった。

 持ち上がり式であるはね学の、高校からの転入生であること。
 はね学お嫁さんにしたい女の子一位の前島密や、雰囲気のある藤堂竜子。学年内でもトップを争う才女の小野田千代美に目立つことこの上ない西本はるひとも仲がいい少女であること。

 そして、初めて美術部に入ってきたときの、笑顔。



(花が咲くよう言うんは、あのことやんなあ)



 本当に、ぱあ、と景色が明るくなったのだ。彼女がこの部屋に入ってきた瞬間に。

 それから自然と部活帰りを一緒にするようになり、時には休日に遊んだりもした。その都度、可愛い女の子だという認識は深まり、そばにいられる自分はなんて幸せなんだろうと思ったのだが。

 自然とクリスの隣に自分の位置を取り、描きかけのカンバスを奥から引っ張り出してきたにクリスが動揺する。おかしい。一体自分はどうしたというのか。


「クリスくん? どうしたの、具合悪い?」

 いつもなら明るく話しかけてくるクリスが黙ったままであることを不思議に思い、が覗き込むようにクリスを伺う。
 すると先ほどよりも近づいた距離にクリスが動揺し、仰け反った瞬間に椅子から反対方向へと転げ落ちてしまった。

「クリスくんっ!?」

 結構な音を立てて向こう側へ消えたクリスに慌ててが立ち上がる。腰をしたたかに打ちつけたクリスは、あまりの情けなさに立ち上がる気力さえ起こらない。

「アイタタ〜」
「だ、大丈夫!? 頭とか打ってない?」
ちゃんは優しいなあ。女の子心配させてもうて、ボク、男の子失格やわ」
「こんなのに男の子とか関係ないでしょ! 立てる? どこか痛めてない?」

 ばらばらと散らばった筆や絵の具をかき分け、がクリスの身体に手を伸ばす。自分のものとは違う、細くて白い手。指。可愛くて大好きな女の子のパーツ。握り締めるのが幸せ。
 けれど、のそれは幸せと一緒に苦しい気持ちも自分にくれる魔法の指で。









(ああ、そうなんや)



 特別なきらきら。
 自分にとって、可愛いだけじゃ済まなくなった女の子。他の子と同じように、ただ可愛いと抱きしめることなんて出来なくなってしまった女の子。















(ボクの、一等賞)















 笑っているキミが好き。
 にぶにぶさんで、ちょっとおっちょこちょい。
 だけどうんと、頑張り屋さんで感激屋さん。






「クリスくん?」
「あは……アハハ、何やろなあもう」


 いきなり笑い出したクリスにが仰天する。まさか本当に打ち所が悪かったのではないだろうか。
 おろおろと意味もなく周囲を見渡すに目を細め、クリスが手を伸ばす。自分を起こそうとしてくれたの手をぎゅっと握り締め、まんまるな瞳できゅるりと自分を映す少女を微笑みながら見つめる。

「答え、分かったで」
「答え?」
「ウン。前にちゃんが聞いた質問。どんな女の子が好きーって」
「え? あ、うん。え?」

 前後が分からず、とりあえず頷く。確かに、そのような質問はした記憶がある。




(きっと、にぶにぶさんやからわからへん思うけど)




「あんな、あん時、女の子は皆大好き言うたけど、確かにそうなんやけど……一等賞、出来た」
「一等賞?」
「ウン。お星様みたいにキラキラしてて、お花みたいに可愛くてふわふわしとるんよ」


 わけが分からずにきょときょとしている子が、そうなんだと告げたら一体どんな顔をするだろうか。


「キラキラで、ふわふわ?」
「ウン」

 傾けた頭の先で、髪がさらりと肩から零れた。
 先ほどまで無理だと思っていたぴったんこ。だけどそれがどうしてだか分かってしまったから。


 ぴったんこなんかじゃ足りない。ぎゅーってしたい。
 だけどまだ、それはちょっとまだ先の話。




(だから今はこれでガマンや)




 赤い頬で察して欲しいと訴える彼女の気持ちには気付かないフリ。
 握り締めた手を、反対の手でもきゅ、っと包んでニコニコと微笑んで。



 ――今度の日曜、空いてへん? と。



 誰もこない部室で、次の約束を取り付けた。



















Fin




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Comment:

クリス主祭り展開中。
クリスが可愛いんです可愛いんです可愛いんです。



20070130up



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