|
|
|
|
● オレンジ・オレンジ |
バスから見える、水平線。
きらきら。
眩しくて、目を細めて。
(ああ)
まるで彼女みたいだと、そう思った。
『オレンジ・オレンジ』
はばたき市内を走るバスは、結構路線が沢山ある。
海沿いを西周りに回るバスもあれば、その逆もあり。市内をつっきるように走るバスもあるし、病院や市役所といった主要施設を巡回するバスもある。
僕は家からはもっぱら電車で、バスを使うことはそうそうない。通っているはば学も駅から充分歩いていける距離で、わざわざバスに乗るまでもないし。
バスを使うのは、学校から買出しに出かける時や、他校との交流の為にそちらへ向かう時くらい。普段使わないバスに乗るのはとても新鮮で、結構好きだったりもする。
(又、会えるかもしれない)
滅多に乗らないバスに乗って、奇跡のような再会を果たした時みたいに。
電車以上に揺れるバスに足元をとられないよう、しっかりと銀色のバーを握り締める。そして路線図を時折眺めながら、見慣れない景色を見つめる。
『次は、羽ヶ崎三丁目。羽ヶ崎三丁目』
耳に届いた案内に、理解より先に身体が反応する。
散々見渡した車内を再度見つめなおして、立ち上がろうとする人がいないか確認する。あの、特徴のある制服がいたらすぐわかるのに、そしてそれが無いことなんて散々確認したって言うのに。
気の抜けるような空気音と共に、扉が開く。僕の視線はまっすぐ前を見て、乗ってくる人に注がれる。今の時間、ありえないことだというのに、僕はほんのわずかな可能性にすがるように1人ずつ、社内に乗り込んでくる人を確認してはため息をつく。
期待なんか、してないつもりだったのにな。
苦笑して、気付けば強く握り締めていたバーから一旦手を離し、握りなおす。
ありえないことに期待するほど、奇跡を当たり前のことに思ってたのなら随分と欲張りになったものだ。
鈍い音を立てて再び走り出したバスは、見慣れない風景を僕に連れてくる。
高台にあるはば学からは見えない景色。遠くに臨む海が、こんなにも近い。
(あ……)
不意に視界が開けて、目の前に一面のオレンジ。
海の向こうへと沈んでいく夕陽が、橙色の両手で海を抱きしめる。まるでそれを喜ぶように生まれた波が光を反射し、怖いくらいの夕焼けと相まって僕の意識を掴み取る。
街並みの間から、見えては途切れ、途切れては見えるその景色はまるで絵本のよう。
ずっと見ていたいのに眩しくて目を細める。それでも強烈なその輝きは、瞼の裏にまで眩しさを届けて。
彼女みたいだと。
そう思ったんだ。
(会いたい)
奇跡でも偶然でも何でもいいから。
そうしたら、今度こそきっと連絡先を聞いて。
(笑われたって、構うもんか)
君がただこの偶然を楽しんでいるとしても、僕は構わない。
そのあとずっと楽しいことを沢山して、最後に君がわかってくれればいい。
『次は、ポートタウン前。ポートタウン前』
告げられた目的地のアナウンスを聞きながら、気が付けば再び強くバーを握り締めていたことに気付いて笑う。
車体が傾き、気の抜けた音と共に開いた扉から降りる。
とん、と、軽い音を立てた足元に、何かの始まりを感じた。
Fin
----------
Comment:
同じくコミスパ用のペーパーネタだったSS第二弾。
元ネタはCDドラマより。
20070111up
*Back*
|
|
|
|
|