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●レイニィ・ブルー |
雨が降るたびに君のこと、思い出して。
しくしく。
胸が痛むんだ。
【レイニィ・ブルー】
雨はきらい。
元々、好きじゃなかった。だって制服はよれるし、靴は汚れるし、髪だって跳ねるし。
(それに)
思い出す。
喉だか胸だか、わからないぎりぎりの境界線がしくしく痛んで。嫌だなって思ったり、そのくせじんわりあったかくなったり。
「やあねえ。今日、降るなんて言ってなかったのに」
言いつつ、しっかり者の密さんはちゃんと置き傘を用意している。ロッカーから彼女らしい淡い桃色の折りたたみ傘を取り出すと、わたしに一緒に入っていくかと聞いてくれたから首を横に振った。
「大丈夫、持ってるし」
「最近奈央さん、傘を忘れること無くなったわね」
「そうかな」
「そうよ。夏くらいだったかしら? 確か夕立にやられて、風邪を引いて休んだことがあったでしょう。そのあたりからかな」
密さんが口にした時期に記憶があって、それで又息が詰まる。でも、わたしはちゃんと笑えてた。
「良く覚えてるね」
「ふふ。尊敬しちゃう?」
だって、奈央さんのことだもの。なんて。
さらさらの黒髪を揺らしながら柔らかい笑顔で、丸い声でそう言ってくれるからなんだか照れる。
「その割りに、雨が降った翌日って奈央さん体調悪そう」
何気ない一言に、驚く。
「あたり?」
反応を返せずにいると、密さんは又、笑って。
それから少し、さびしそうな顔をした。
何かあるのなら話してね、と、習い事のある彼女は教室を後にしたけれど、残されたわたしはぼうっと教室の窓から外を見る。
木々に降り注いだ雨粒が、一旦枝葉に受け止められて大粒になり地面に落ちる。
(本当、良くみてる)
あの日以来、傘を忘れないことも。
あの日以来、翌日に具合があまり良くないことも。
帰り道、遠回りするようになったのもあの日から。正確には、それより1ヶ月くらいあとだけど。
出来るだけ足元に水が跳ねないよう気をつけながら歩いて、わたしはあの店を目指す。今日みたいに突然の雨に降られて、雨宿りをしたお店に。
見つけたお店の軒下に身体を滑り込ませて傘を畳む。先客のいないそこは時間の流れまでゆるりとしているように静かで、雨音がいやに耳に響く。
(こない、かな)
あの時みたいに。
気付いたら、隣にいて。
(なんて)
そんな偶然、あるわけないのに――。
「ばかみたいだ」
わかってるのに諦めきれなくて。今度又会えたら、入れてあげてもいいよって、その為に何を忘れても傘だけはいつも学校に持ってきてたり。
こうやって、雨が降るたびにここに寄って、偶然を待ってる。又バスで会うかもしれないし、ばったり外で会うかもしれないけど、なんだかこれが一番確実な気がして。
呟いて、泣きそうになった。ばかみたいばかみたい。こんな気持ちになるなら、ちゃんと連絡先聞けばよかった。待ち続けた時間の分だけ、悲しくなって胸が痛い。
だってこんなに気になるなんて、思わなかったんだもの。
傘を開く。雨のせいだけじゃなく、暗くなった空の中を家に向かって歩く。
密さんに心配かけないように、ちゃんとお風呂で温まってから寝よう。遊くんが貸してくれた漫画とか読んで、笑って元気になって。
雨の中を歩きながら、何度も振り返る自分を馬鹿だなんて思いながら、それでも曲がり角を曲がるまでわたしはずっとそうし続けた。
fin
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Comment:
本当はコミスパのペーパーにしようと思っていた話第一弾。
ので、赤城サイドの対になっておりますです。
20070111up
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