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●ひだまり |
ぴたり、と、背中に触れた何かがあった。
我ながらみっともない声を上げながら(しかし不可抗力だとも思う)振り返れば、そうしたことで自分の羽で横っ面をはたかれる羽目になってしまった恋人が、同じく変な声をあげていた。
「っと姫さん!? だ、大丈夫か?」
散った小さな羽毛が鼻腔をくすぐり、千尋がくしゃみをする。驚きで広げてしまった翼を静かにたたみながら、サザキは千尋へと向き直った。
問えば、鼻をぐずぐずさせながら千尋がまっすぐに自分を見上げてくる。ああ、俺の姫さんは今日も可愛いなあ、とうっかり別の方向に向いてしまった思考を戻し、彼女の答えを待つ。
すると千尋は再びとたとたと自分の後ろに回って、先ほどのように背中にぴたりと両の手のひらを当てた。
「な、なん、なんだ?」
手を添えたサザキの背中は、ひんやりとしていた。鍛えられた筋肉で表面がつるりとして見える分、余計に冷たく感じるのだろうか。
当てた手を外し、息を吹きかけては再び背中へとそれを添える。自分で言うところの肩甲骨のくぼみから生えている羽はとても温かそうだけれど、その為に彼が着ている服は大きく背中が開いたもので。
夏は良いが、冷たい風が吹き始める時期になると心配になってしまったのだ。自分が寒がりということもあるのだろうけれど、見ていたら寒くて、寒いだろうなと思ってしまって、先ほどの行動へと繋がった。
息を吐いては手を温め、温まった手をサザキの背に当てる。なんどもそれを繰り返しながら、千尋は眉根を寄せた。
一方のサザキは、そんなことを感じたことも思ったこともなかったので大層驚く。いつも一族でつるんでいることもあり、そのようなことを言われたこともなかったのだ。
そうか、普通の人間から見ればそう見えるのか、と、感慨深く思いながらも、小さな手で一生懸命自分の背を温めてくれる恋人を、眼差しを細めて見つめた。
「姫さんは優しいなあ」
「そんなことないわ」
かか、と豪快に笑ってサザキは千尋の手を取る。今度は、自分の羽で千尋をぶってしまわぬように気をつけながら。
「ちぃとも寒くなんかねえから安心しろって」
「本当?」
細く小さな千尋は、強い海風が吹こうものなら飛ばされてしまいそうだ。こうして平和な日々を送っていると、あの、共に戦い抜いた時間が嘘の様に感じるほどに千尋の肩は細く、頼りなく見える。
言われた千尋は小さく噴出すと、こう見えても逞しいから大丈夫よ、と笑う。そして、それに、と続けて。
そんな言葉を、照れもせずに正面から言うものだから、自分の方が照れてしまって。
「ま、まあな、この羽さえありゃあどんな寒さからだって守り抜く自信あるぜ?」
――羽だけじゃなくてね、サザキがあったかいの
照れ隠しも兼ねて大仰に宣言して見せれば、その後に続いた千尋の台詞になけなしの努力すら軽く吹き飛ばされた。
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Comment:
以前日記でアップしたものを。
サザ千は天然千尋と純情サザキとで全然進展しなければいいと思います笑
20081219up
*Back*
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