彼女と登校するのはいつもの事。
彼女の家と僕の家から学校に向かうまでの途中、交差する最初のところで待ち合わせをし、文字通り肩を並べて学校へ向かう。
「今日は一段と寒いですね」
言いながら、凍えた手にはあっと息を吹きかけるのは後輩であり僕の彼女の雪村千鶴。いつも高く結い上げている髪が肩で揺れるのを可愛いな、と眺めながら、彼女が息を吹きかけた手を取った。
「え、あの」
「寒いならこうすればいいんじゃない?」
手を握っただけなのに、すぐに赤くなる頬は凄く可愛いと思う。だけど、付き合ってもう半年以上経つっていうのにまだそれな訳? と、不満に思わなくも無い。
っていうか、反応がいちいち大きいからつい必要以上につつきたくなるんだよねこの子の場合。
「沖田先輩おはようございまーす!」
「沖田くんおはよう」
同じ学校の女子が、通りすがりにかけていく挨拶に適当に応じるとあがる黄色い声。適当、っていうのはつまり、言葉汚く言えばあしらうということなんだけれど、隣の千鶴はなんだか凄く寂しそうな顔をする。
「どうしたの?」
「いえ……相変わらず凄い人気だなあって」
彼女の返事に、勝手に僕の眉がぴくりと反応する。又どうせ、何で自分なんかがって続くんでしょ。
千鶴は俯いたせいで口元に被ったマフラーを反対の指でえいしょと整え、いらっとした僕に気付かぬようににこりと笑ってきた。あれ?
「隣にいて当然って思ってもらえるように、頑張りますね」
ちょっと待ってよ。
なんでこのタイミングでそうやって笑うわけ?
でもってなんでそんな可愛いこと言うの。
(僕をこれ以上夢中にさせてどうしたいの君は)
見つけた時から、ちょっとだけ可愛いと思ってた。だけどそれだけ。
正直、容姿だけで言うならどこにでもいる子。だけど、何かの折につついたら凄く面白くて、変な子だなって興味が沸いた。
苛めたら泣きそうな顔するくせに、無駄に踏ん張って歯向かってきたりして頭悪いんじゃないかって思って。珍しくて構ってたら――捉まった。
「いいよ頑張らなくて」
「でも」
「いいって言ってるでしょ。面倒なことになるのは御免だから大人しくしててくれると助かる」
これ以上可愛くなって、僕以外のヤツがちょっかいなんて出してきたら困る。
勿論譲る気なんてないし、負けるつもりなんてこれっぽっちも無いけど、僕と千鶴の間に邪魔な存在なんて蟻一匹いらない。
僕と千鶴だけいればいい。
だけど千鶴はそんな僕の心境なんかにはこれっぽっちも気付かないで(鈍いから当たり前だけど)、心底しょんぼりとした顔をする。だからもう、僕は降参するしかない。
ずるいよね女の子って。
「千鶴」
握った手を、ぎゅってして。
「千鶴は今のままでいいよって言ってるの。もう十分可愛いんだから、それ以上頑張ったら駄目だよ」
「かわいくなんかないです」
沖田先輩だってちょっと前までそう言ってました。
うわ、昔の事今持ち出すかなここで。っていうか、呼び方までなんで昔に戻ってるの。
「だって仕方ないじゃない。悔しかったんだから」
千鶴はきょとんとした顔をする。それが又腹立たしい。
ねえ、一体君はいつになったら本当の意味で僕の気持ちを認めてくれるんのかな。
千鶴が『彼女』のポジションになってから少しだけ落ち着いた(千鶴に言うと「え」って言われるけどさ)嗜虐心が目覚める。
衆人環視の中繋がった手を力いっぱい引き寄せて抱きしめる。周囲から上がった黄色い声と、腕の中の真っ赤な千鶴に少しだけ満足して、もっと満足するべく彼女の額に唇を落とした。
Fin
コメント:この二人が高校生だったらこんなんじゃないかなーという(以下略)
初出:20090213
再掲:20090318
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