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 ●【薄桜鬼】 −沖田×千鶴−(転生編)
※ちょびっとだけ色描写ありです。ご注意下さい。









 記憶の中でなら、何度もある。
 けれど、「この身体」の記憶には『それ』はない。

「緊張してる?」
 聞かずとも分かることをあえて言葉にして問えば、案の定非難めいた視線が返された。が、目があったかと思うと一瞬の後に逸らされる。唯でさえ赤く、これ以上そうなりようがないと思っていた目尻に更に朱が乗ったのがわかり、何だか自分の方が照れてしまった。
 記憶どおりの細い身体。けれど、あの時よりも若干丸みというか柔らか味を帯びた気がするのはやはり時代というものだろうか。
 高校を卒業し、制服を脱いだ彼女は途端に大人びて見えて沖田は複雑な心境になった。無論、私服姿など高校の時だって休日のデートやらなにやらで散々見慣れているというのに、「高校生」という肩書きがなくなった途端、見えなかった殻がそれでも確かに彼女から、自分たちから剥がれていく。
 そして目の前にいる彼女は、文字通り身にまとうものを一枚ずつ脱がされていく。他でもない、自分の手によってだ。
 滑らかな肌。感じる温もり。
 抵抗したいくせに、ぐっと堪えているのが分かる筋肉の動き。何一つだって変わってなんかいない。
 いない、けれど。
「ああ、やっぱり君もしてるんだ」
「え?」
 これ、と、沖田の指がすっと千鶴のブラジャーの肩紐をひっかけるようにすくう。それは一体どういう意味かと千鶴が絶句し、固く引き締められた唇に、沖田が少しだけ慌てたように言葉を付け足した。
「別に必要ないんじゃないかとか、そういう意味じゃないからね?」
「……そんなこと、一言も聞いてませんっ!」
 若干涙目になりつつある恋人をあやすように、横になっているせいであらわになっているつるりとした額に自分のそれを軽く押し当てる。ここで謝ろうものなら、違う意味になりそうで、だから沖田は謝罪の言葉を口にするのは止めた。
「だから。あの頃ってさ、着物を脱がせたら直接君の身体だったわけじゃない?」
 こんなものなかったし、と、ひっかけていた紐を肩から外す。と、胸そのものを支えていたカップと肩紐がつながっている部分がわずかにたゆみ、内側の実が形を変える。それだけで湧き上がる何かを感じ、あ、やばい、などと沖田は胸中でのみひっそりと零した。
 片方の腕を千鶴の背に回し、浮かせたことにより生まれた隙間を利用してホックを外す。何でこんなに手馴れているのか、と千鶴が疑問に思うまもなく、辛うじて支えられていた柔らかな双丘は、重力に従うように本来の形に戻っていった。
 それでも自らの腕を交差させ、すっかり役目を放棄させられた下着と共にささやかな胸を隠せば、無駄な抵抗だとばかりに沖田が三日月の目で笑う。
「あれはあれで手っ取り早くていいけどさ、こういうのもいいよね。じらされてるみたいで」
「ええと、あの」
 なんだか変態さんみたいですよ、とは照れ隠しでもさすがに口に出せず、千鶴はもじもじと身体を縮こませる。と、沖田の手が伸びてはみ出ていたブラの端をつかんで引いてくる。手を離せ、の意だ。
「でもあんまりお預けされると、僕も余裕なくなっちゃうよ?」
 そうしたら、君に優しくしてあげられなくなるけど、いいの?
 続けられた問いに思わず息を硬くしてぶんぶんと首を左右に振る。ベッドと頭の間に挟まれていた黒髪が、かさかさと音を立てて抗議をしてきたがそんなことに構っている余裕は無い。
 この身体にその記憶はないけれど、「記憶」は確かにあるのだ。余裕のない沖田が、どれほどの苦痛と快楽を己に与えてくれたかということなど。
 緩めた腕の隙間からするすると抜き出されていく下着を見るのが忍びなく、真っ赤な顔でぎゅうと目を閉じているとぱさりと音がした。多分、それをどこかに置いたのだろう。頼むから、出来れば視界に入らないところに置いておいて欲しいな、と思春期の娘らしい願いを千鶴は描いたが、叶えられているのかどうか。
「あのさ、どうせ押さえるなら僕のにしない?」
「え?」
 これ、と、沖田の指が千鶴の手を差し示す。無論、それが隠しているのは千鶴の双丘だ。
 何を言っているのかと眼差しだけで問うと、やや強引に沖田の腕が千鶴の片腕を取って自らの胸に押し当てる。肌蹴たシャツの内側にあった温もりに手のひらがふれ、反対の腕で押さえていた胸の内側で心臓がどくりと跳ねた。
 それと同時に。
(あ――)
 触れた手のひらに、伝わる律動。
 とくん、とくん、じゃなくて。
(とくとく言ってる)
 笑みを象った唇は変わらない。こちらを伺うように見ている眼差しも同じ。だけど、その奥にあるかすかな羞恥は、彼の目尻をほんのりとだけ染め上げている。
「僕だってさ、同じだって思わない?」
 ――好きな子を初めて抱くのに、緊張しないわけないじゃない
 ああ、そうだ。
 自分たちは今初めて、肌を重ねるんだ。
 馬鹿みたいに当たり前のことで驚いて、そうこうしているうちに、反対の腕をとられて広げられていた。
 恥ずかしい、と思うより先に、沖田が覆いかぶさってきたからちょっとだけ安心して、だけど見られないという安心の代わりに、触れられるという新たな羞恥が加わる。

 だけど二人一緒なら、いい。

 

 記憶は有る。だけど、それは「違う」。
 初めて触れる身体と、感じる熱。「同じだ」と思うのは、「幸せだ」と思うきもちだけ。

 千鶴ちゃん、と呼ぶ声も。
 沖田さん、と返す言葉も。

 

(幸せ、だなあ)

 

 溶ける熱に想いも溶けて。
 無性に、誰かにありがとうと言いたくなった。

  








Fin


コメント:北海道旅行中に浮かんだネタ。ギャグになるはずが、ならんかった…乙女沖田め(愛)!!



初出:20090702
再掲:20100309

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