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●桜 |
夕焼けの空に白い雲がたなびき。
今年も咲いた薄紅の桜が、風に誘われるように散っていく。
目蓋を閉じて、開く。自然と浮かんだのは、何故か笑みだった。
風が頬を撫でるたびに思い出すのは斎藤さん。
ただそこに在り、誰に、何に邪魔されようとするりと先に進んでいくひと。
穏やかかと思えば激しくもあり、けれど形を変えてもその本質は決して変わらない。彼がいつも身に纏っていた白い布の如く、はためいて揺れても必ずそこにただ在って。
本質を決して見誤らないひと。それは他者に対しても同じ。
きいてくれる、という優しさを分けてくれたひと。
陽があたたかであればいつも一緒にいた三人を思い出して。
目を閉じても目蓋に感じるぬくもりは、耳をふさいでも聞こえてくる賑やかな笑い声にも似て頬が緩むのも同じ。
その光を受け、そして風を受けその身をゆらしつつも揺るがない木々は、いつも飄々と人の間にいた沖田さん。
受けるものによって豊かにその表情を変えるくせに、深遠に決して覗かせない何かを持っていたひと。揺らがない『個』であり続けたひと。
顔を真っ直ぐに夕日に向ける。そこにある、恐怖を覚えるほどに鮮烈な赤は土方さんにも似て。
あの夕陽のように決して手は届かないのに、与えられる影響は何よりも強く。
沈み行くのを止めたいのに何も出来ない。沈んでしまうのではない、自らと地平線の向こうへその姿を落としていく姿に胸を締め付けられるこの感情は、郷愁にも似ている。
大切だった。
大好きだった―― 否、今でも。
空を仰ぐと目に入る桜は近藤さん。美しく咲き散り行くもの。
陽を受けて四肢を太くし、花を綻ばせては木から離れ風にその欠片を舞わせる。
やがて夕闇に溶け込む色は、悲しいほどの朱。
けれど散った後にも、残り続く志という命がある。
彼らの背中をいつも後ろからしか追いかけることしか出来なかった自分。
もう少しこの足が早ければ、掴みとる腕の力が強ければ、少しでも未来(今)を変えることが出来ただろうか。
「今年も桜が咲きましたよ」
返る言葉は、ない。
変わるはずがない
変えられるはずがない
だからこんなにも彼らの残したものが眩しすぎて、痛くて、泣きたいほどに愛しいんだろう。
いつかまた出会うことが出来たのなら、今度はせめて、その背を見つめながらでも共に歩きたい。
彼らの影を見るだけの存在でも、後ろに立って、先しか見ない彼らの足元を見てあげられるような。
ああそれでも。
自分の考えにこぼれたのは苦笑。そんなの、無理に決まっている。
だっていくら石があって転ぶと言ったところで、見つめた先に目指すものがあるなら迷わずそれを踏みしめるだろう。
崖しかないと叫んだところで、そこしか道がないのなら自ら飛び込むだろう。
容易に想像できるそれらの姿に、浮かぶものは苦笑以外なにもない。だめだ、とわかってても、何故、と思ってしまっても、彼らが『彼ら』であり続ける以上結局すべては『仕方のないこと』。
――私結局、なにもお力になれそうにないです
『おまえは笑ってりゃいいんだよ』
『そうそう。馬っ鹿だなあ千鶴は』
『女の子が笑って傍にいてくれるってのは、それだけですんげえ力出るんだぜ?』
きっとあの3人ならそう言って。
『僕たちの力になりたいなら、せいぜい大人しくしててよ』
言いながら、それでもその顔は少し困ったような笑顔で。
『前に出られては守るにも守れん。下がっていろ』
離れろとは言わず。
『そうだなあ。女子の君にこのような血生臭い勤めに巻き込むわけにはいかんし』
『ですね。綱道さんにも申し訳が立ちません』
大きな身体を「困った」風にしてきっとそう言い、それを後ろに控えた人が微笑みながら後押しをするだろう。
そして。
『馬鹿かおまえは』
全く真逆の渋い顔をしたひとが、仁王立ち。
「はい。馬鹿なんです私」
それでも離れられずに傍にいたい、と思ってしまうことを馬鹿だというのなら、きっと自分は日本一の大馬鹿だろう。
そして、それを後ろめたくも思わず、誇らしく思える自分が嫌いじゃない。
気づけは赤色は藍に染まり、桜はひときわ白くその姿を浮かび上がらせて舞っていた。
肩に舞い降りた一片が何故か彼らからの返事にも思えて、そっと大切に手のひらで包み――胸に抱き寄せた。
Fin
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Commnet:
何度生まれ変わっても、きっと共に歩みたいと。
20090507up
*Back*
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