** Happy C×2 **
 ●ずるいひと

 斎藤さんが、実は結構甘い物好きだと気付いたのはいつだったろう。
 確か、中々外に出かけられない頃に「お土産だ」って原田さんがお団子を買ってきてくれた時があって、偏見かもしれないけれど、男の人ってこういう甘いものを余り好まないかなと思っていたから、隊の皆さんの食べっぷりに驚いたことがあって。
 平助君と永倉さんはいつものように激しく奪い合いを演じ、俺は千鶴に買って来たんだって言いながら、原田さんが私の分を確保してくれて、そうしたらやっぱりいつものように実に洗練された動きで斎藤さんが横からそれを奪っていった。けれど、驚きはいつもの比じゃなかった。だってまさか、お団子まで弱肉強食とは。
 その後も、お客様から頂いたものだとか、逆にお客様にお出しするもので数が余ってしまったものだとかを皆さんにお茶請けとして出す機会が度々あって、そうしているうちになんとなく、特に斎藤さんって甘いもの好きなんじゃないかなって思い始めたんだ。
 お酒を飲む人は甘いものが苦手、って言うことは聞いたことがあるけれど、その逆はあまり聞いたことがない。勿論、斎藤さんは下戸ではないけれど、どうしたって他の皆さんの飲みっぷりに比べると余り飲んでいない印象がある。
(あ、違うかも)
 そこまで考えてとある可能性に気付く。食事のときもそうだけど、あの仕草や雰囲気にだまされないで良く見ていると、斎藤さんは実に良く食べている。そう考えると、お酒も又然りかもしれない。
「うーん……でもそうすると、益々わかんないなあ」
 まあ、単純に甘いものが好きってことなんだろうけど。
「何が、わからないのだ?」
「きゃあっ!」
 背後から不意に聞こえた声に、手に持っていた包みをすっとばしそうになる。実際、半分以上落としかけたそれを、背後から声をかけた人物がすばやく手を伸ばして押さえてくれた。
 少し驚いたような表情で、斎藤さんが包みをしっかりと私の手に戻してくれる。私は気恥ずかしさを隠すように御礼を言いつつ、若干の恨めしさを込めながら斎藤さんを上目遣いで見た。
「気配消して近付くの、やめません?」
「今は消していないが」
「うう……」
 すみません私が気付かなかっただけですよね知ってました。でもだってびっくりしたんだもの。
 火照る頬を自覚しながら、当初の目的を思い出して私は手の中の包みを見、あたりをきょろきょろと見渡した。そんな私を、斎藤さんはいつも以上に怪訝な顔で見ている。
「千鶴?」
「しーっ! 斎藤さん、ちょっとこっちに来て下さい」
 人差指を唇の前に立て、視線で斎藤さんを誘導する。本当はこんなにお天気がいいし、縁側の方が気持ちいいだろうけれどそんなことをしたらいつ他の人に見つかるかどうかわからない。
 そのまま斎藤さんを自室に招きいれ、部屋の端にある文机に包みを乗せる。そしてそれを開けながら、まだ入り口に立ったままの斎藤さんを手招いた。
「これ、さっきいらっしゃったお客様が下さったんです。度々近藤局長をお尋ねになる方で、毎回お茶をお出ししていたら顔を覚えてくださってお土産にって」
 言って、中から出てきた和菓子を見せる。
 近藤さんや新選組に対するお土産なら勿論こんなことはしないけれど、これは私個人に下さったもので、且つ近藤さんにも遠慮なく頂きなさいとお許しを貰ったものだ。
 それに、皆で分けようにも元々私に、というだけあって数が少ない。だからこっそりと斎藤さんだけを呼んだんだけど。
「あの……斎藤、さん?」
 無言のままの態度に不意に不安を覚え、名前を呼ぶ。もしかして大事なお仕事中でしたか? と今更ながらに聞くと「いや」と短い返事が返って来たからほっとする。
「じゃあ、私こっそりお茶を入れてきますから、待っていてくださいね。斎藤さんいつもお忙しそうですもの。少しくらい息抜きしたって大丈夫ですよ」
「何故、俺に?」
「え?」
「菓子が好きなヤツなど他にもいるだろう」
「ああ、そういうことですか」
 唐突な質問にきょとんとしかけたけど、続く言葉に納得する。確かに、ぱっと考えれば平助君の方が適任だ。
 斎藤さんも同じことを思ったのだろう、何故自分に声をかけるのかと視線でも問うてくる。
「だって、平助君や永倉さんは食べ物なら何でも好きって感じですけど、斎藤さんは特に甘いものがお好きな気がして」
 そこまで言ったところで、斎藤さんの目が小さく見開かれる。え、私、何かまずいこと言っちゃったかな!?
 あわあわしたところで言った言葉は戻らない。どどどどうしよう怒らせちゃった!?
「あの、ごめんなさい違いましたか?」
「いや……良く気付いたな」
 ふ、と。
 見開かれていた眼差しが柔らかく細められ、口元からわずかな笑みがこぼれる。
(は、反則――っ!)
 不意打ちでそんな顔を見せられたら反応に困る。
「あ、あの、とにかく中に入ってください。皆さんに見つかっちゃいますから」
 じゃあ私、お茶入れてきます! と言い残して部屋を去る。
 土間に下りて湯を沸かしながら、ほてったままの頬を両手で挟む。水に触れて冷えた平が心地よい。
「うう〜〜」
 水が湯になるまでの時間を要して、私の頬はようやく落ち着きを取り戻す。美味しくなりますようにと念じながらお茶をいれ、今度こそ油断しないぞと気合も一緒に入れてから私は自分の部屋へと戻った。

 

 

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Comment:

全クリご褒美スチルを見て思いついたお話。
斎藤さんが甘いもの好きだったら萌えるよね(主に私が)!!という
妄想の産物です。

20090203up


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