** Happy C×2 **
 ●拍手再掲

 最後に耳に届いた声は、誰のものだったのだろう――

「なんで動かねんだよ俺の身体はよぉぉぉぉ!!!」
「待ってってば!」
「私たちも――命を捨てる気で来た!」


 月を覆い隠すほどの存在。けれど、不思議と怖いとか恐ろしいといった負の感情はまるでなかった。
 ただ、最初からそう決まっていたことを受け入れただけ。そう、これは決まっていたことなんだ。


「有里君!!!!」


 決まっていたことなんだ。

 大丈夫。
 もう、覚悟は出来ている。
 怖くもなければ、負ける気もしない。

 だってこれは、決められていたことなのだから。


 仲間が地面に押し付けられるのとは反対に、自分の身体は奴――デスへと引き付けられていく。
 自分だけが。彼を宿していた自分だけが。


「有里君! 有里君!!」


(怖くはないけれど)


 きっと君は泣いているだろうな。
 泣いてくれているんだろう。大きな目を、白い頬をこれ以上なく赤くして。
 動かない自分を責めながら。馬鹿だな、君たちのせいじゃない。だから君たちが――君が泣くことなんてない。


 ふいに頬に冷たい風が通り抜ける。それが、風が冷たいのではなく、頬(そこ)を通ったから冷たくなったのだと気付いた。
 いつだって自分は、気持ちの動きに鈍いままで。こんなときまで身体が教えてくれるまで気付かなかったんだな。


(ごめん皆……)

 顔で、言葉で表すことが下手だった自分には、いつも君の表情が眩しかった。
 君は俺を強い人間だと、うらやましいと言ったけれど、本当に羨ましかったのは俺の方で。

「……ごめん、山岸」


 君が好きだよ。

 頬を伝う何かがこの気持ちを君に届けてくれるといい。
 間近に迫った強大な存在から目を逸らさずに、けれど一度だけ瞳を伏せた。


 彼女の元へ。









Fin

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Comment:

拍手再掲。
ほんと勢いのみで書いてます。
P3はもう主風プッシュで!
(20070603)



20071101再掲




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