最後に耳に届いた声は、誰のものだったのだろう――
「なんで動かねんだよ俺の身体はよぉぉぉぉ!!!」
「待ってってば!」
「私たちも――命を捨てる気で来た!」
月を覆い隠すほどの存在。けれど、不思議と怖いとか恐ろしいといった負の感情はまるでなかった。
ただ、最初からそう決まっていたことを受け入れただけ。そう、これは決まっていたことなんだ。
「有里君!!!!」
決まっていたことなんだ。
大丈夫。
もう、覚悟は出来ている。
怖くもなければ、負ける気もしない。
だってこれは、決められていたことなのだから。
仲間が地面に押し付けられるのとは反対に、自分の身体は奴――デスへと引き付けられていく。
自分だけが。彼を宿していた自分だけが。
「有里君! 有里君!!」
(怖くはないけれど)
きっと君は泣いているだろうな。
泣いてくれているんだろう。大きな目を、白い頬をこれ以上なく赤くして。
動かない自分を責めながら。馬鹿だな、君たちのせいじゃない。だから君たちが――君が泣くことなんてない。
ふいに頬に冷たい風が通り抜ける。それが、風が冷たいのではなく、頬(そこ)を通ったから冷たくなったのだと気付いた。
いつだって自分は、気持ちの動きに鈍いままで。こんなときまで身体が教えてくれるまで気付かなかったんだな。
(ごめん皆……)
顔で、言葉で表すことが下手だった自分には、いつも君の表情が眩しかった。
君は俺を強い人間だと、うらやましいと言ったけれど、本当に羨ましかったのは俺の方で。
「……ごめん、山岸」
君が好きだよ。
頬を伝う何かがこの気持ちを君に届けてくれるといい。
間近に迫った強大な存在から目を逸らさずに、けれど一度だけ瞳を伏せた。
彼女の元へ。
Fin
-----
Comment:
拍手再掲。
ほんと勢いのみで書いてます。
P3はもう主風プッシュで!
(20070603)
20071101再掲
*Back*
|