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 ● ゆれる ゆらぐ 想い

 無くしてから気付くものがたくさんある。 
 たとえば、あんなにスカしてたように見えたのは、単に表情にうまく出せなかっただけだったのだとか。 
 たとえば、恋愛ごとに自意識過剰だったのは、それだけの背景があったからだとか。 
 たとえば、年齢よりもずっと大人びていたのは、そうであろうとしなければならなかったからだとか。 
 たとえば。 
 訪れるたびに綺麗に咲き誇ったままの花が、オレに見せるためだったことも。 
 




『ゆれる ゆらぐ 想い』 





 
 一度だけ、枯れていたチドリの病室に置かれていた花瓶の花。 
 枯れていたら捨てる。役目を終えた花がずっと病室にあるのもなんか変な感じだったし、単純にチドリには綺麗なヤツを見ていて欲しいっていう思いもあったし。 
 そのとき発動したチドリの力。今はオレに引き継がれた、生命の流れを操るもの。 
 それを見せられた後も、単に取り替えるのが面倒なのだと思ってた。ずっと綺麗なままで咲き続ける枕もとの花は、その存在そのものが違和感を覚えるものであったはずなのに。 
 単に目に映る現象だけを見て、綺麗だってそう思って。 
 それが綺麗であり続けられるのは、チドリの命を分けてもらってるからだって――気づけたはずだった。 
「私達が訪れた時は、花なんて枯れたままだったぞ」 
 桐条先輩がこぼしたたった一言で、どれだけチドリがオレを想ってくれていたのかが分かる。 


 彼女が気づかないまま、けれど想いは確かにそこにあったのに。 


 先輩から渡されたチドリのスケッチブックには、たくさんのオレがいた。 
 誰がどう見たって、3割増でイイ男なんじゃないかってくらいの肖像画は、笑い飛ばす前にゆがんでにじむ。 
 零れ落ちて大切なスケッチブックに落ちる前に天井を仰いで鼻をすすったら、気管に入って激しくむせた。あーあ、やっぱ、かっこ悪ぃ。 
「チドリ……」 
 なあチドリ。オレさ、ちゃんとこれっくらい、君にとってイイ男でいられたかな。 
 世界を守るスーパーヒーロー! なんてふざけて言ってたけど、そんなんじゃなくてさ。君だけを守れるような、そんなヒーローになりたかったよ。 
「超中途半端じゃん、オレ」 
 世界を救うスーパーヒーローはアイツで。君だけのヒーローにもなれなくて。 
 みじめったらしく鼻水すすりながら泣くことしか出来ねえ、こんなオレでも、君は好きだって言ってくれた。 
 ごほんごほん咳き込みながら、涙やら鼻水やらあらゆる液体を袖口でぬぐうオレは、多分この世で一番滑稽だろう。
 
 それでも。 

(こんなオレでも) 



 一緒にいたいと。 



 これからは一緒だって、命まで与えてくれて。 









 ページをめくる。こんないい笑顔なんてするか? ってくらい、恥ずかしくなる位のオレがいて又泣きたくなる。いい加減こすりすぎた目元がぎゃんぎゃん悲鳴を上げ始めて痛ぇし、でも、こんな顔でもチドリはこうやって描いてくれたんだろうか。 



 くれたんだろうな――。 







「だからさ……オレ、頑張るよ」 
 望んでばかりいないで、オレにだって出来ることを精一杯頑張る。 
 いつかオレにしか出来ないことが見つかったら、今度こそ死ぬ気でそれをやり遂げて。そしたらチドリだって、一緒に笑ってくれるよな? 
 チドリが生きるはずだった未来を、オレが精一杯二人分生き抜いてやる。 
 だからチドリ、ここ で見ててくれよ。 
「いつかホンモノの方が3割増でかっこいいって言わせてやるぜ」 
 オレは画用紙に向かって挑戦状を叩きつけ、折れないように気をつけながら表紙を閉じる。 
 決意は胸に。もう、腐らないと決めたけれど。 
(やっぱ) 
 出来れば胸(ここ)じゃなくて。 
 隣で。 

 君にみていて欲しかった。 















 綴じたスケッチブックを、オレがチドリにあげたそれを抱きかかえて泣きじゃくる。 
 ごめんチドリ。オレ、ちゃんと頑張るから。頑張るからさ。 
「今だけ……ごめんなぁ」 
 世界一格好いい男になる為に、今は世界で一番だっせえ男のままで。 
 今だけでさ、死ぬほど泣きまくったらもう、泣かないって誓うから。 
「ごめんな……チドリぃ」 















 ――守れなくて、ごめん 
 
 
 
 
 
 
 
 









 
Fin







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順平が大好きです。


20060626up




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