** Happy C×2 **
 ● これまで これから

 今でも悔いることがあって。


『大丈夫だ、俺たちには再生の神子がついてるんだから!』


 自分が言った言葉に、彼女はその時どんな表情をしていただろうか。
 幼い頃から時間を共にし、見慣れたという次元を遥かに超えた筈なのに。知らない顔など無い筈なのに。





『えへへ、私、がんばる』





 陽に透けるようなブロンドの髪を、ふうわりと揺らしながらそう笑った幼馴染の顔は、きっと初めてみるものだったのだ。

















これまで これから


















「よっし! 回収終了、っと」

 世界再生の旅が終わり、旅を共にした仲間達とそれぞれ自分にしか出来ない事をする為に別れた後、ロイドはコレットと共に世界に散らばるエクスフィアを回収して回るという、新しい旅に出た。
 エクスフィアはそもそも、原石を人間の体内に埋め込むことから生成が始められる。そして埋め込まれた人間が迎えるのは、スピードに差こそ有れ例外なく「死」だ。しかしそうして生成されたエクスフィアは、あらゆる機械や魔力の核となり力となり、この世界の発展を支えているのも又事実。
 まだ一般的には知られていないとは言え、少なくとも知ってしまった自分達は今までのようにその恩恵に縋って暮らそうとは思えない。



 世界の安寧を犠牲で得るか。それとも、多少の後退を覚悟しながらも新しい代替を以って誰も犠牲にならない世界を作るか。



「お疲れ様、ロイド」

 その身は誰よりも軽そうなのに、おおよそ足取りはそうとは思えない仕草でコレットがロイドの元に駆け寄ってくる。転ぶから、と、慌てて止めるロイドの声に、へーきへーき、と笑顔で返し、けれど同時に何もないところでバランスを崩して宙に両腕を回転させる。

「はわわわわっ」
「コレット!」

 辛うじて伸ばした腕の先でコレットを支え、しかしバランスを取るために回していたコレットの腕がロイドの額にがつんと当たる。勿論そんな事で支えていた腕を外すロイドではないが、結果的に殴ってしまったコレットが激しく動揺し体勢も整わぬまま大仰に謝る。

「ごめんなさいっ! ごめんねロイド、ごめんね!」
「だ、大丈夫だから暴れるなって……うわあ!」
「きゃあっ」

 二次災害、と言うべきかどうか。コレットが思いの丈を態度で表し結果としてバランスを崩した2人が今度は大地へと身体を預ける。かろうじてコレットを自身の上にすることに成功したロイドは、けれどそのせいで決して柔らかくは無いテセアラの両腕に抱きとめられ、一瞬だけ息を詰まらせた。

「ロイドっ!」
「っ、てええええ」

 幸いむき出しの荒野ではなく、うっそうとした草が生い茂る場所だったことも幸いし、出血を伴うような怪我にはならなかった。ロイドはがばりと跳ね起きたコレットと同じ角度に上半身を起こしながら、みしりと痛む背中を擦る。

「ごめんね、ロイドごめんね」
「まあったくコレットはドジだなあ」
「ごめんなさい」
「いいって。それより怪我ないか? どっか擦り剥いたりしてないか?」
「ううん、ロイドがかばってくれたから、だいじょぶ」

 目の前の少女が頭を振るのを確認し、ロイドは小さく笑う。コレットはそんなロイドの笑顔をみて微笑み、ロイドも又その笑顔を見て笑う。暫し地面に腰を落としたまま似つかわぬ雰囲気で和むと、一足早く我に返ったロイドが頬を若干赤くしつつ立ち上がる。その後を追うようにコレットが立ち上がり、否、立ち上がろうとしてバランスを崩した。

「いたっ」
「コレット!?」

 短い悲鳴と共にコレットが再び地面に腰を落とす。ロイドが慌ててコレットを覗き見ると、コレットはロイドを心配させまいと慌てて首を振るがとっさに小さな手のひらで隠した膝を強引に覗き見ると、黒いタイツが擦り切れ、うっすらと血が滲んでいる。

 思わず眉根を寄せたロイドの顔を見、コレットは「えへへ私ドジだから」と笑いながら再び傷口をロイドから遠ざけようとするが、ロイドはそれを許さず、腰にぶら下げていた布袋から薬草を取り出した。


「……ごめんな」


 この場にリフィルやゼロス。もしくは実の父親であるクラトスがいれば、こんな傷など一瞬で治せるだろう。しかし生憎、ロイドにはヒーリングに属する魔術は使えない。
 攻撃力を増幅する力は、母の肩身でもあるエクスフィアによって得られる。けれどそれでもこの怪我は癒せない。
 謝られたコレットはその意図が分からず、そのままにこてりと首をかしげる。さらさらと音も立てずにブロンドの髪が肩を流れ、先端が地面に広がる。汚れないようにとロイドがその髪をすくい上げ、けれどそれでも零れた一房が、再び大地に影を落とした。




 自分に力があれば。
 例えば、今目の前の少女の傷を癒す力だとか。
 例えば、転ぶ前に重力を加減できる力だとか。
 例えば。




『守るよ』




 誓われた言葉の意味を、取り違えないだけの強さだとか。






「ロイド?」
「……ごめんな」



 ずっと言いたかった。悔いた気持ちは、再生の旅の目的が変わった時に、彼女を守り通した事で証明した。けれどずっとずっとひっかかっていた気持ち。自分の弱さを、希望という言葉で誤魔化して彼女に押し付けた事実。それを、背負わせてしまった事実。
 力がすべてだとは思わない。それでは、ミトスとなんら変わらない。そうではなくて、せめて自分の大切な存在の変化だけは見逃さない強さを。







『私、がんばる』







 その笑顔を肯定することは、彼女に早く消えろと言っていたようなものだったのに。











「あのね」




 さらり、さらり。ロイドの手からコレットの髪が零れていく。
 コレットはやや慌てたようにロイドを見上げ、一度自分の傷口に目を移し、再び幼馴染の少年を見上げた。



「あのね、私、だいじょぶだよ?これもちっとも痛くないしね、あのね」
「コレット……」
「ロイドが、そんな風にする方が、私つらいなあ」



 えへへ、と、彼女特有の困ったような笑顔。
 思わず言葉を失ったロイドに、コレットは更に笑顔を向ける。


「ごめん、は禁止なの。ロイドはごめん、って言っちゃだめだよ」
「なんだよそれ」
「だってロイドは、私にいっぱいのものくれたもん。ほんとは私、ここにいなくて、こうやってロイドと一緒に旅をすることだって出来なくて、怪我だってすることも出来なくて」


 あ、でも怪我は痛いからちょっとやだけど、と、少し慌てたように言い直す。ふるりと頭を振った仕草で、最後の一房がロイドの手から零れた。



「だからね、ロイドは私に謝っちゃダメだよ」



 胸の位置に、小さな両手を重ね合わせて、一言一言、大切な言葉を紡ぐように。
 伏せていた眼差しを再び見開いた少女の青い瞳に映っていたのは、自分。いつも、いつでも、コレットの視線の先にはきっと自分がいて。

 コレットが自らの髪の色と同じ暖かさで微笑み、言葉を返せないでいるロイドの手をとる。そうして、「ありがと、ロイド」と告げると握った両の手に力を込めた。









「守るから」



 怪我をした足に負担をかけないよう、コレットの身を起こしながらロイドはそう呟く。コレットはわずかに聞き逃し、きょと、と幼馴染の少年を見上げると、少年はわずかに翳り始めた陽の光をその背に受けながらはっきりと言い放つ。



「俺が、コレットを守るよ」



 再生の旅が終わっても。エクスフィアの回収の旅が終わっても。
 こうして、隣で。



「あ、あのねっ、私もロイドを守るよ?」
「だーめだ、おまえドジだからすぐ怪我するし」
「ロイドだって無鉄砲だもん! リフィル先生だって、私の方がしっかりしてるって言ってたよ?」
「ぐ……っ」
「今までいっぱい守ってくれたから、今度は私がロイドを守る番だよ」
「だめだ」
「だめじゃないもん!」








「じゃあ」

「うん」














「一緒にいよう」








 







 神子だから守るのではなくて。大切な幼馴染であり、友人だからということでもなくて。
 一番に護りたいと思った相手だから。


「ずっと?」
「ああ、ずっとだ」
「うん、ずっとね」


 赤みを増したオレンジの光が、森の木々に色濃い影を生み出す。狂おしい程の赤と黒がテセアラの大地に色を落とす中、繋がった二つの影が歩を進める。
 ゆっくり、ゆっくりと。

 手を、つないで。
 まっすぐに。










Fin





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Comment:

本当は冬合わせのフリー本用の原稿だったなんて言えマセン。
あああコレット好きだー大好きだー。
片瀬のロイコレいちゃりずむ(何)はこれがマックスで、これ以上両想い色が強いお話はかけないと思います。
片想いだと思ってる同士の話が好きっぽい。
(なのでドラマCDの「仲がいいね」みたいな問いかけに目いっぱい声を合わせて
「うん!」と言い切った2人にメロメロ過ぎて死ぬかと思いました……)

ちまちまちまちま書いててやっと終了。ひ、一安心。


20050206Up











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