『拝啓 未来の僕達へ / 沖田×千鶴』
「大丈夫?」
返事も出来ずにこくりと首肯する。それを確認し、沖田の腕が千鶴から離れた。
触れられた箇所があつくていたい。声を拾った耳の奥もいたくて、泣きそうになる。
すぐそこにある姿を映すことが怖くて、千鶴はぎゅっと目をつぶった。見たいのに、見られない。これ以上彼の存在を感じたが最後、自分がどうなるのかがわからない。
聞きたいことは山ほどあるのに、望まない答えが出たらと思うと怖くて聞けない。動かなきゃ進まないのに、どうしてもそれが出来ない。
暫く、二人黙ったまま、止まったまま時間だけが流れていった。そしてその沈黙を破ったのは、沖田の方だった。
「……なんで、僕を見ないの?」
その声に、千鶴の肩がぎゅうと縮こまる。自分が誰と話しているのかが分からないということが、こんなにも辛いとは思わなかった。
視線の先では、素足のつま先がまっすぐに自分に向かっていた。ああそういえば、沖田さんも足袋を履くのを嫌がっていつも素足だったなと思い出し、それだけでも泣きたくなる。
風邪は足元からひくんですよ、と言っても改める様子はなく、いつも困らされていた。どうしてこんなにも、小さなことひとつひとつまで覚えているんだろう。
「覚えてるんでしょ? 僕のこと」
平坦な声が示した内容に、思わず顔を上げる。見えた顔は、先ほどまでの『沖田』ではなく、確かに自分が捜し求めていた『沖田』のものだった。
「おきた、さ……」
名を呼んだ瞬間、沖田の眼差しが細められた。それが分かった瞬間、千鶴はへたへたとその場に座り込んでしまった。
「ちょっと!」
驚いた沖田が慌てて腕を伸ばして千鶴のそれを掴む。が、すでに役目を果たすことを放棄した腰が全力で立つことを拒絶している。
仕方なく沖田がしゃがみ、千鶴と視線を合わせた。ひた、と真直ぐに。
「……おきたさん?」
「うん」
「本当に、本当に沖田さんですか?」
「うん。違うって言ったら君、困るでしょう?」
苦笑しながらそういった沖田に、千鶴はこくこくと首を振る。そんな自分をおかしそうに見る視線は間違いなく彼のもの。
「探してたんです」
あの日、沖田を失ったあの夜からずっと、果たせなかった想いを叶えたくて。
自分を庇って斬られた彼の身体を抱きしめるしか出来なかった自分。初めて伝えた想いを、嬉しいと言ってくれた彼。
残してしまってごめん、と。
最後の最後まで自分のことばかり考えてくれて、なのに自分は何も出来なかった。
「会いたくて……私、伝えたかったことが沢山あって」
許してと言った彼に、答えをあげることも出来なかった。
死に逝く彼がせめて思い残すことが減るように、言葉の限りを尽くせばよかったとどれほど後悔しただろう。声を聞きたいと言ってくれた彼に、どうしてもっと愛しているということができなかったのだろう。
そんな後悔の量で死ぬことが出来るなら、どんなに楽だったろうかと思う夜が続いて。
今目の前に、求め続けた相手がいる。
「僕も……君に言いたいことがあるんだ」
黙って千鶴の言葉を聞いていた沖田が、ぽつりと零した。
そして続いた言葉に千鶴が瞠目する。
「ごめん」
→ to be continued
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