『めくるめく』 若王子×主人公



「あまりに、ロマンが足りませんでしたね。先生、うっかりしました」
 折角君と一緒にいるのに、と、今度は大人の顔で笑う。
「じゃあ、こうしましょう。葉っぱの赤いのは、寄り添う恋人たちに照れているんです」
「はい?」
「ほら、君だって同じでしょう?」
 先生の手が、わたしの頬を包む。
 さっきより近づいた目線が心臓をぎゅうって掴んで。
「ほら、赤くなった」
「せっ、先生っ!」
「どきどきしたでしょう。ピンポンですか?」
「……ぶ、ブッブーです!」
「おやおや」
 それは残念。
 そんな事を言いつつ、わたしの頬を解放してゆっくりと歩き出す。だけどその顔はしっかり笑ったりなんかしてるから、悔しい。
(ほっぺた熱い)
 先生の一歩後ろを歩いて、気付かれないように冷たい指先で頬を冷やす。
 先生は、本当にずるいと思う。
 大人の男の人だと思っていたら、子どもみたいに無邪気な顔をしたり、口にしたり。
 かと思うと、ふと大胆なことをする。大人の余裕で、わたしの反応を楽しむかのように。
 だけどそれは「素」で、だから余計に性質が悪いんだ。



→ to be continued