『水色の境界線』



 私たちはずっと幼馴染で、兄妹のようで。時に逆転したり、そうして一緒に生きてきて。
 変わるはずなんて、ないと思ってたのに。
「向こうに行ったからとかじゃなくてさ……あのままこっちで暮らしてたって、変わるもんは変わるんだ。それをお前は、変わっちまったことを全部向こうの世界のせいにしてるだけだろ?」
「そんなこと……っ」
「少なくとも、俺がお前を好きなのは向こうの世界に行く前からだけどな」
 さらりと、軽口のように告げられた言葉に絶句する。
「ええっ!?」
「お前そんなんだろ? 俺は色々考えたわけさ。まあ、もう少し幼馴染やるのも悪くねえって思ってたのも、本当だけどな」
「どうして! いつから?」
「聞くかお前がそれを」
「だ、だだ、だって」
 熱を冷ますように、アイスにかぶりつく。溶けてもやっぱり冷たいそれは、急に噛み付かれたことに対する抗議のように、私の頭に氷の針を突き刺す。顔をしかめた私をみて将臣君は吹き出し、馬鹿、と、自分もアイスを一口かじった。
「言わないまま、ああなっちまって……言っとけば良かったなと思ったり、言わないで良かったんだ、って、思ったり」
 自分の心残りと、言われて残された者の気持ちを秤にかけ、やりきれない夜もあったのだと将臣君は笑う。年相応の少年の顔に、確かに存在したあの三年という月日の重みを乗せて。
「会えたと思ったら、互いに譲れねぇモノ、背負っちまってて……ありゃあ、キツかったよなあ」
「……うん」
「情けねえけどさ、どうして俺たちが、って思った」
「うん」
「ぬるま湯みてえな関係が気持ちよくて、踏み出すきっかけをただ待ってたんだ。自分に言い訳して、お前の為だなんて考えながら本当は」
「将臣君」
「……結果が、あれだろ?」
 ぽたり。アイスが、溶けて。
 さあさあと、庭でおばさんが木々に水をあげる音が聞こえる。
「こっちに戻ってこれても、実感なんてねえんだ。目が覚めたら俺はまだあそこにいて、お前らにも会えてなくて、一人で」
「将臣君」
「無事でいるのかって、元の世界に戻れているのかって」
「将臣君!」
肩を掴む。将臣君は苦笑する。
「馬鹿、大丈夫だって」
「だって」
「お前に心配されるようじゃ、俺もおしまいだな」
「もう! 本気で心配してるのに!」
「悪ぃ悪ぃ。いや、だからさ」
 食べ終わったアイスの棒を、名残惜しむようにぺろりと舐める。その、たった15センチ程度の木の棒がゆっくりと雑誌の上に落ちるのを、何故か目を離せずに私は見ていて。
「良く耐えたなって、褒めろよ」


→ to be continued