『Spoon』 冬の海は寒い。 そう思って、でも今はもう春なのかなとあかりは考え直す。二月なら冬で四月なら春。その間である三月は季節的にも中途半端だ。 海辺の灯台には誰もいない。そもそも、普段はその入り口は固く閉ざされている。それが今日に限って開いていたのは、あながち伝説も嘘ではないのかもしれない。 「ごめんな」 何度目かわからない謝罪を口にする瑛に、あかりは無言で首を振る。制服が汚れるのも気にせずに、壁に寄りかかるように座って手すり越しの海を眺めながら。 「迎えにきたから」 「違うよ。わたしが迎えに行ったんだもん」 「知ってる」 口元だけで小さく笑い、立っている時よりも目線の近い少女を見つめる。 「だから、絶対帰らなきゃって思った」 潮風にあかりの肩が震えるのを見、コートを持ってこなかったことに内心舌打ちをしながら、瑛は彼女に近いほうの腕でその細い肩を引き寄せた。 「じいさんにも言われた。『見たくないものから目を背けるのはおまえの悪い癖だ』って。ハハッ、ホントそうだよな」 「瑛くん……」 「でもさ、いつまでもそんなガキじゃかっこ悪いし。おまえにも会わせる顔なくなっちゃうし」 「そんなこと」 「おまえさ、いつだって前向きじゃん? 最初は何だコイツとか思ったけど、気が付いたらおまえのそういう所にずいぶん救われてた。だけど俺はガキでさ……おまえに甘えてたことにも気付かないで、傷つけてばかりで」 「そんなことないよ!」 焦りすら含んだ声に、瑛は首を横に振る。慰めではなく、本気でそう思ってくれるあかりだからこそこんなところでも自分は救われている。 (だからさ) もう、泣かせたくなんかないんだ。 「俺、ずっとおまえの傍にいる。もっとさ、かっこ良くなれるように頑張るし。だけど、まだまだガキだから、やっぱりおまえのこと傷つけることもあるかもしれないけど、それでも、一緒にいて欲しい」 → to be continued |